ローマ字での人名表記、なぜ中国や韓国は「姓・名」の順なのか?

 河野太郎外相が5月21日、日本人の人名をローマ字表記する際に、従来の「名・姓」表記から「姓・名」の順番にするよう、海外メディアに要請する方針だと表明した。それに対して菅義偉官房長官は「これまでの慣例など考慮すべき要素が多々ある」と記者団に語っており、政府も必ずしも一枚岩ではない様子。そんな人名の表記について、各国事情に詳しいトラベルライターが指摘する。

「漢字圏の人名表記はどこでも“姓・名”表記ですが、日本以外では英語表記でも“姓・名”のまま。たとえば中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は、英字メディアでも『Xi Jinping』と表記されます。河野外相もアジアの人名では“姓・名”表記が長らく慣例化されていると述べており、日本だけが特殊な状態と言えるのです」

 日本が現在の“名・姓”表記を採用した経緯には、明治維新で海外の文化が一気に流入した際、ローマ字表記では欧米流に合わせることにしたからだと言われている。それでは中韓はなぜ“姓・名”表記を変えなかったのか。そこには文化的な理由があるというのだ。前出のトラベルライターが続ける。

「日本とは異なり、中韓の人名は常にフルネームで呼ぶのが習慣となっています。韓国では国民の54%が『金、李、朴、崔、鄭』の五大姓ですし、中国ではそこまで極端ではないものの『李王張劉陳楊趙黄周呉』の十大姓が22%を占めており、そもそも苗字のバリエーションが少ない。そのため韓国では電話に出る際に『ペ・ヨンジュンです』と名乗るのが当たり前ですし、中国では友人や同僚のことをフルネームで呼び捨てするのが一般的。そんな文化があるため、ローマ字表記にする際にも“姓・名”をワンセットで扱うほうが自然なのです」

 それに対して日本は、相手との関係性に応じて姓か名だけで呼び合う文化。それゆえ英語表記の際に鈴木一朗が「Ichiro Suzuki」になっても、とくに違和感をおぼえないというわけだ。その一方で欧米でも、アジアと同様の“姓・名”表記を採用することがあるという。

「電話帳では索引性を高めるため、ドナルド・トランプは『Trump, Donald』と表記されます。また世界中で様式が統一されているパスポートでも上に姓、下に名となっており、やはり“姓・名”表記を採用している形。だから欧米人も姓と名が入れ替わることがあるのを認識しているはずです」(前出・トラベルライター)

 政府方針がどうなろうと、自分にとって最もしっくりする順番を使ってトラブルになることはないのかもしれない。

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