テストステロンは骨や筋肉を作り、強さを保つ、いわば「男性」を形づくるホルモンで、性欲や性機能の源であると同時に、やる気や判断力、決断力といった精神面にも大きな影響を与えるのだという。
「人間はストレスを受けると、視床下部の自律神経中枢で異変が起きます。自律神経には主に、頑張る時に働く交感神経と、休む時に働く副交感神経とがあり、交感神経は昼間の大事な神経。ところが、ストレスによる緊張から昼間の交感神経が過敏な状態になると、思わぬ条件反射が出てくるのです。
例えば会議前に必ずトイレに行きたくなる、あるいは電車の乗り換えや公園などでトイレを見かけると駆け込みたくなる、などが典型的な症状。さらに悪化すると、ドアノブなど冷たいものに手を触れた途端に尿漏れが起こってしまう、なんてこともあるんです。そんな症状が出たら、男性更年期障害のサインと考えていいでしょう」(横山医師)
つまり、ストレスによってアクセルの交感神経とブレーキである副交感神経のバランスが乱れ、性ホルモンの分泌の異常が脳下垂体を刺激。脳下垂体が異常をきたすと視床下部が暴れ始めて、体にさまざまなサインが表れる。それが、男性更年期障害のメカニズムだ。
ただ、やっかいなことに、そんな症状が表れても多くの男性は「仕事で疲れているから」あるいは「年齢が年齢だから」と安易に片づけてしまいがちで、
「人間は年をとれば、なんとなく仕事が惰性になってしまったり、女性を見てもトキメかなくなります。でも更年期障害になると、今までやっていたことを一切合財、何もしたくなくなるんです。しかも、例えば親が立て続けに死んだ、親しい友人が突然亡くなった、などといった大きな理由もなしにそれができなくなる。特に日本人の場合は、自分で『あれ、最近おかしいぞ?』と思っていても、それを気づかれないようふるまうために症状が進みやすく、周りが気づくほど重い状態になって初めて病院にやってくる、というのが大方のパターンなのです」(横山医師)
周りに迷惑をかけたくない、責任を自分に問うといった、真面目な日本人ならではのメンタル指向が、病状の悪化に拍車をかけるわけだ。
実際、横山医師いわく、男性更年期障害になりやすいのは生真面目で責任感が強い断り下手、さらに環境の変化に順応しにくいタイプが多いのだとか。
「例えば、体育の教師が管理職などになった場合、更年期障害の症状が表れるケースが多いのです。なぜなら、それまで毎日、大声を出して筋肉を動かしていたから、黙っていても男性ホルモンが出ていた。それをやめてしまったせいで、テストステロンの値がドーンと下がってしまったことが要因になります」(横山医師)
ホルモンの減少は、血液中の活性型テストステロンを測定することで確認することができる。若い男性の場合、血液1cc中に30〜40ピコグラムあるホルモンが、50歳前後になると10台の値にまで減少する場合があるという。これがさらに10を切る値になると、危険水域に達する。
さらに、うつ症状を伴うケースとなると、コトはさらに深刻だ。
「中でも40〜50歳代の働き盛りの男性がうつを伴うと、自殺願望が表れる場合もあるため、放置するとたいへん危険です」(横山医師)
リストラや成果主義の導入など、厳しさを増す社会背景は目に見えないストレスを生みだしていく。特に年度の変わり目を迎え、疲れがたまる5月は、中高年の男性更年期障害を加速させる季節とも言えるのだ。