急転直下、中田の巨人への無償トレードの急展開にはビックリさせられた。前回のコラムで「他球団も獲得に手を上げにくく、今季の復帰は難しい」と書いた直後の8月20日の発表やった。しかもトレード入団の翌日に早くも試合に出場して、次の試合にはスタメンでホームラン。観戦に来ていた長嶋さんも大喜びしていた。だが、このホームランをマスコミが美談にするのはおかしい。日本ハムでは無期限出場停止処分を食らっていたはずやのに、ちょっと筋が通っていない。
中畑らも言っているけど、やっぱり手順がおかしい。ヒゲをそって、黒髪に染め直し、いきなり巨人で入団会見をした。でも、まずは日本ハムで謝罪会見を開くのが先やった。これでは今まで応援してきた日本ハムファンの気持ちは置いてきぼりとなる。トレード期限は8月31日まである。せめてギリギリまで待ってもよかったんとちゃうかな。百歩譲っても、1軍での試合出場は月替わりの9月からにしたほうがよかった。
他球団に移籍したら罪がなくなるんやったら、清田も何とかしたらなアカンと思うで。不貞で謹慎処分が明けた途端に、また不貞が発覚して、5月23日にロッテを契約解除となった。コロナ禍でみんながいろんなことを我慢している中で、確かにいただけない行動やった。ただ、犯罪を犯したわけでない。家族はめちゃくちゃ怒っているやろうけど、後輩に暴力を振るったのとどちらが悪いやろか。警察沙汰でもおかしくない中田が許してもらえるなら、清田も許したってもいいのと違うかな。
巨人にしたら、中田獲得はおいしいトレードになった。腐っても、3度もパ・リーグで打点王に輝いた打者なんやから。札幌ドームよりホームランの出やすい東京ドームなら、反対方向への一発も増える。日本ハム時代はコーチからきつく言われることもなく、気分次第で適当にやっている感じが見えた。でも、巨人に来たらそうはいかん。目上の坂本もいれば、同級生の菅野や丸もおる。原監督の目も光っているし、わがままな野球はできないようになる。だからこそ、体調さえ問題なければ、それなりの数字を残すと思う。
ただ、阪神との優勝争いで巨人が有利になったかといえば、そうとも言い切れん。この2チームの争いは打線よりも、先発投手陣がカギを握っているから。お互いに下位チームに取りこぼしが多く、戦いぶりが今ひとつ安定しないのは、エースと呼ばれる立場の者がふがいないから。巨人はやっぱり菅野が復活しないと苦しい。阪神も西勇輝がピリッとしない。通算100勝に王手をかけて足踏みを続けているのは、プレッシャーではなく、単に本来の球威、コントロールがないから。一度ローテから外して、2軍で再調整させたほうが得策やと思う。
阪神と巨人が先発陣の整備ができないままやと、しぶとく食らいついているヤクルトにも逆転の目が出てくる。このチームも先発ローテが弱いけど、村上、山田を擁する打線の力だけならリーグトップクラス。打ち合いの展開になったら負けていない。今の状況なら三つ巴で終盤までもつれる可能性が高い。いずれにせよ、中田という役者が加わり、セ・リーグの優勝争いが盛り上がるのは間違いない。コロナが収まって、ファンの歓声があれば、もっと盛り上がるんやけど。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。