世界の福本豊 プロ野球“足攻爆談!”「中田翔は高卒選手の悪しき典型や」

 日本ハム・中田翔の件は残念でならない。球団の顔といえる選手で、年俸は3億円を超えるチーム一の高給取り。本人は普段からの悪ふざけの延長線上で、ついカッと来て後輩に手を上げたのかな。まさか出場停止処分の大ごとになるとは思っていなかったはず。栗山監督の「このチームでは(復帰は)難しいかな」の発言を聞いていると、積もり積もったものや根深い問題があるようにも思える。

 監督やコーチの鉄拳制裁は、昔の球界では日常茶飯事のところがあったけど、選手同士の暴力は、僕自身は経験したことがない。悪ふざけを受けたといっても、遅くに飲んで帰ってきた先輩にドアをドンドン叩いて起こされるぐらい。こっちは2軍のデーゲームで朝早くに起きないといけないのに、えらい迷惑。でも、それぐらいのかわいい嫌がらせ程度やった。

 栗山監督も責任を感じていたように、中田を「お山の大将」にしてしまった球団や周囲にも問題はある。大阪桐蔭から鳴り物入りでドラフト1位で入団して、最初からチヤホヤされていたと思う。高卒選手は特に気をつけて教育しないと、部活の延長線上のような気分でプロ野球選手になる者が少なくない。

 オリックスで2軍監督をしていた時に、高卒新人に「お前の職業は何や」と聞いたことがある。ぽかんとした顔でしばらく考えてから「野球です」と。自覚がなかったんやろな。「オリックスという球団に就職して、社会人になったんやぞ」と、当たり前のことを教えてやらなあかんかった。社会人からプロ入りした選手は「働いて給料を稼ぐ」という意識があり、上司や目上の者との接し方も学んできている。その教育を球団、監督、コーチがしっかりしてあげないといけない。

 こんなこともあった。若い選手が数人でたむろしている横をたまたま僕が通りかかると、後輩が先輩に友達みたいな口調でしゃべっているのが聞こえてきた。だから「先輩にはしっかり敬語で話しなさい。先輩も注意しないといけない。野球をやめたあとに社会に出て苦労しないように教えてあげるのも役目やぞ」と。

 そういえば、中田は若い時に、ベンチ裏で先輩と怒鳴り合う口論を報じられたことがあった。その時も誰かがしっかり諭したのかどうか。若い時からヤンチャやったから、兼任コーチの鶴岡を除けば、32歳ながら野手最年長となった今の中田は好き放題にやれてたはず。凡打のあとにベンチでバットを叩き割ったりする姿はみっともなかった。

 でも、同じ高卒のドラフト1位で日本ハムに入団した大谷は優等生として育ったし、本人の資質の問題もあるんかな。中田も2017年のWBCでは、侍ジャパンの主力を任されたほどの男やのに、東京五輪で金メダルを獲得した陰のエキシビションゲームで残念すぎる事件となった。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

スポーツ