8月2日からiPadでもウィンドウズが使えるようになった。7月14日にマイクロソフトがクラウド上で利用できるOSサービスの「ウィンドウズ 365」を始めると発表していたが、それががいよいよスタートしたのだ。
クラウド上のサービスなのでネット環境が整っていれば利用可能で、現行のマイクロソフトのOSである「10」や次世代の「11」で利用可能なのはもちろん、iPadやアンドロイドの端末、アップルのパソコンのMacやリナックス機器からでも利用することができる。
これはアップルにとって「思わぬ誤算だった」と、ITに詳しい経済ジャーナリストは説明する。
「コロナ禍では、リモートワークで持ち運びに便利で高性能なiPadを会社として採用するという動きが多くあります。となればこれはアップルにとっては、会社ごとアップルへという法人契約増加につながるわけですが、そのiPadでもウィンドウズが使えるとなれば、単に優れた端末の1つでしかなくなってしまうからです」
もちろんビジネスユースではウィンドウズが多数派。Macはその画像システムが必要な医療や印刷といった限られた分野で主流であるに過ぎない。パソコンに限れば個人の利用も概ねそういった傾向だ。だからコロナ禍のリモートワークの拡大はアップルにとっては好機到来で、iPadを武器にウィンドウズに対抗していこうと動いていたばかりだったのだが。
「アップルは20年にMacのCPUでそれまで使用していたインテル社製品を取りやめ、iPhoneやiPadに搭載している自前の『M1』に変更しています。MacOSの『Big Sur』もM1で最適化するようにしてあり、つまりはiPadを軸にビジネスを展開しようとしていたわけです」(前出・ジャーナリスト)
そして20年6〜7月には、アメリカで法人向け機器管理企業を買収したり、日本でもNTTドコモと組んで法人向け営業を強化していたのだが、ウィンドウズ365がスタートしたことで一気にiPadの優位性は揺るがされかねない。要はウィンドウズに侵食された形だ。
打ち捨てられたのがmacOSだ。巷にはiPadでmacOSを使いたいという声は根強くあるものの、アップルはMacとiPadは別物という姿勢を貫き、さらには通常のノートPCに引けを取らないスペックを誇るiPad Proは未だmacOSは使えないままだ。アップル内にある機器の隔たりを、ウィンドウズ365はクラウド上で超えてしまうことになる。
かつてアップルは2016年に業績が悪化した際、iPhone頼みのモノづくりの企業からソフトへの脱却で危機を回避した経緯がある。だがモノにこだわらないウィンドウズ365の出現が、未だやはりモノへのこだわりが残っていることを露呈させる形になった。
(猫間滋)