マスターズ初挑戦から苦節10年、松山英樹がついに偉業を成し遂げた。グリーンジャケットに袖を通した勇姿を同学年の石川遼はどんな思いで見つめていたのか。ハニカミ旋風から14年、両者の立場は完全に逆転した。日本のゴルフ界を牽引してきた2人の天才の〝落差〟が生じた分岐点を深掘り調査する。
「世界の日本人ゴルファーに対する見方が変わってきますよ」
アジア勢初の「マスターズ」優勝を果たした松山英樹(29)の偉業を興奮気味に語るのは、ゴルフジャーナリストの宮崎紘一氏だ。
「強烈なインパクトを残したのは、3日目の15番ホールで決めたイーグルでしょう。2打目で、5番アイアンを少しカット気味に打ってツーオンに成功。グリーンの手前と奥に池、途中左側に林というスペースがない難コースを果敢に攻めたことで、単独首位に躍り出ることができました」
このまま万事順調とはいかないのもまた一興。2位に4打差でスタートした最終日にピンチの場面はあった。1番、12番、15番でボギーを叩いてしまい、同組で回っていたザンダー・シャウフェレ(27)に4連続バーディーを奪われ、2打差まで詰め寄られる展開に。
「前日にイーグルを決めた15番の2打目がグリーンを越えて池ポチャ。本人も『アドレナリンが出すぎた』と話していましたが、ここでボギーを叩いたことで、冷静になれたのかもしれません。反対にシャウフェレは、16番ホールの1打目をグリーン手前の池に入れてしまい、結果トリプルボギー。松山はグリーンの右サイドを狙って3パットする安全策で逃げ切りに成功しました」(宮崎氏)
実に、17年8月の「ブリヂストン招待」以来の米ツアー勝利である。一時は世界ランキング2位に上りつめるも33位にまで転落。世界の壁に跳ね返される冬の時代を過ごしていた。忸怩たる五里霧中の状況から栄光に導いたのが、昨年末から契約を結んだ目澤秀憲コーチ(30)の存在だ。ゴルフ誌ライターが解説する。
「松山はまさにお山の大将で、他人の意見を聞いたためしがなかっただけに大変驚きました。同郷で家族ぐるみの親交がある女子プロの河本結のコーチだった縁で、松山も指導を仰ぐことになったそうです。米国レッスンライセンス『TPI』で最高位となるレベル3の資格を所持する数少ない日本人ですが、フォームやトレーニングについて指導するわけではなく、スイングの軌道や打ち方などを複数の測定器を用いてデータ化し、それをもとに助言を送るアナリストのような役割です」
伴走者のごとき関係性がマッチしたのか、長年の「自己流」では成しえなかった弱点の改善につながったようだ。
「ウイークポイントだったパットが改善されました。もともと結果オーライを許さない超完璧主義の性格でしたが、コーチの指導のおかげか、少々の誤差を許容する心のゆとりが表情から見て取れました。今季のパット貢献度は170位に低迷していますが、マスターズでは、平均1.58のパット数で10位。パットさえ平均値のレベルになれば、さらなる勝利も見込めるでしょう」(宮崎氏)
もはや、米メジャー全制覇も夢物語ではないのだ。
「週刊アサヒ芸能」4月29日号より