世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「想定外の盗塁王争いになりそうだ」

 開幕10試合を終えての盗塁数は、周東が1、近本が2。昨年の両リーグの盗塁王がゆっくりしている。シーズン50盗塁以上するつもりなら、開幕10試合で5つぐらいはしとかなアカン。ファンも2人には盗塁を期待しているし、もうちょっとペースを上げてほしい。

 盗塁を増やすには、いつも言うように、まず塁に出ること。近本は10試合で打率1割4分6厘で四球1。なかなか塁に出ることすらできない。何に苦労しているかと言うと、ストレートに差し込まれる傾向がある。速い球に負けて、ピンと打ち上げるケースが多い。球を近くまで引きつけて打とうとしすぎているのか、ポイントが近い。これでは変化球はさばけても、ストレートを打てない。まずは一番難しい内角高めのストレートにタイミングを合わせて、変化球への対応を考えたほうがいい。

 それともう少し出塁率を気にしてほしい。1割6分7厘は低すぎる。初球から積極的に振っていくタイプやけど、先頭打者が1球でアウトになれば、相手投手を助けるだけ。10試合を終えた時点でセ・リーグの盗塁トップは中日・大島、ヤクルト・塩見、巨人・増田大が3つで並んでいる。大島が出塁率3割7分2厘で、塩見が同4割1分。盗塁の数が増えて当然の打撃をしている。

 そう考えると、代走専門で3盗塁の増田大は大したもの。走ってほしい場面で起用されて、きっちりと期待に応えている。盗塁王争いが30個台になれば、代走だけでもタイトルを取るチャンスが出てくる。それだけ走れれば、去年の周東のようにスタメン起用の機会も与えられるようになる。ボールの見極めをしっかりして、打率2割5、6分打てれば、原監督も先発で使いたくなると思う。

 パ盗塁王の大本命の周東は打率2割4分3厘で、出塁率は3割。近本ほど打撃の状態は悪くないけど、リズムに乗り切れてない。塁に出ると、走る姿勢は見せてはいるけど、当然のことながら投手のけん制の数が増えるなど、マークが厳しくなっている。そこをかいくぐって走ることが面白いんやけどね。

 そんなうかうかしていられないタイトル争いにライバルが出現した。開幕10試合を終えて、パ・リーグの盗塁数トップは西武・若林の4。僕も実は開幕前までノーマークな選手やった。

 今年もコロナ禍で球場には自由に行けないから、自宅のCS放送でチャンネルを頻繁に切り替えながら、各球場の試合をチェックする日々が続いている。西武では金子の調子が気になってたけど、目に留まったのがドラフト4位ルーキーの若林やった。駒大出身の右打ちの外野手で、足の速さが魅力。スタメンの機会はまだ少ないけど、山川、栗原、外崎が故障で離脱したし、チャンスはもっと増えそう。来日が遅れていたスパンジェンバーグが1軍合流するまでに、しっかり居場所を確保しておきたいところやね。

 若林のような新しい選手を見るのは一野球ファンとしても楽しみ。でも、野球というのはほんまに難しいし、面白い。先週はこのコラムでソフトバンクが「今年もやっぱり強い」と書いた途端に5連敗。エース千賀も復帰登板で捻挫降板した。ほんまに何が起きるかわからん。すべてのチームがおっと思わせる予想外のプレー、試合をどんどん見せて、盛り上げてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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