「うちの業界はコロナで儲かったけど、おたくの業界は大変そうだね〜」
「いまどき完全リモートじゃないって随分古くさい企業体質だね」
「まったく、近頃の若いもんはそんなことも知らないのか」
いまだ脅威が冷めやまぬコロナ不安の中、日本社会ではマウンティングが横行しているという。心理カウンセラーによれば、マウンティングが起きる原因の一つには自己肯定感の低下や欠如が関係しているようだ。
「自己肯定感とは、自分自身を価値ある存在として肯定できる感情のこと。たとえば『自分はダメで無価値な人間だ』『自分はなんて不幸な人間なんだ…』などと自分を否定すると、自己肯定感は低下していきます。特にコロナ禍の現在は感染リスク、景気低迷による失業リスクなど不安要素が多いため、自己肯定感が低下しやすい状況です。そうした人の中には、メンタルに不調をきたしたり、最悪自死してしまうケースも。あるいは、自分よりさらに下の人間を見つけて蔑むことで優越感に浸り、安心感を得ようとする人もいます。これがマウンティングの正体の一つです」
自己肯定感に関する調査としては、厚生省が2020年9月に発表した「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査」が参考になる。アンケート対象者(10,981件、15歳以上)のうち「コロナ禍で何らかの不安等を感じた」と回答した人は、最盛期(同年4月〜5月)には63.9%にも達した。こうしたデータからもマウンティングの増加を推察することができる。
前出の心理カウンセラーは、特に顕著なのが中高年世代によるマウンティングだという。
「ビジネスパーソンの中には、仕事は人脈、社歴、役職、現場経験などで決まるという美学を持っているケースも多い。しかし、コロナ禍ではそうした美学は軽視され、テレワークやDX(ITやデジタル技術を用いた仕事改革)が推進された結果、不慣れな働き方を余儀なくされています。そんな中で、一部の中高年は『若い社員のようにテクノロジーの進化についていけない』『今までの仕事のやり方が通用しない。若手に追い越されるのは時間の問題だ』『これまで自分がやってきた仕事は無価値だったのではないか』と、自己肯定感が低下した状態が続いています。そうした劣等感から『リモート世代の若者はダメだ』『営業は足で稼ぐものだ!』などと若手にお説教することで、自分が優位に立とうとしているのでしょう」
もっとも、日本人の自己肯定感が低いのは今に始まった話ではない。2014年に内閣府が発表したアンケート結果によれば、「あなたは自分に満足していますか?」という問いに、アメリカ(86.0%)、イギリス(83.1%)、ドイツ(80.9%)、フランス(82.7%)、スウェーデン(74.4%)、韓国(71.5%)なのに対して、日本(45.8%)は断トツの最下位だった。
日本人の自己肯定感が低い原因は、過保護やスパルタな両親に育てられた経験、右に倣えの学校教育、自己主張を良しとしない日本社会の風潮など様々あるといわれているが、それに加えて前出の心理カウンセラーはこう解説する。
「特に日本の中高年世代の場合、いい会社に入って出世することが美徳だと教えられて育った人が多いためか、会社への依存心が強い傾向にあります。しかし、現実問題として会社にしてみれば社員の代わりはいくらでもいるため、社員は会社に一方的に依存している状態ともいえます。正社員はそう簡単に首を切られないと主張する人もいますが、仮に職場で無能の烙印を押されれば、結局は居づらくなって退職を余儀なくされることも。そんな中で、自分の地位を脅かす若手や同僚の存在に不安を感じるのは当たり前の話。それに組織に属している以上、人間関係がうまくいかなかったり、業務を押し付けられたりすることは避けて通れません。そうした不安や不満を解消するための〝心の叫び〟として、マウンティングをしているとも考えられます」
コロナの有無に関わらず、日本のビジネス社会でマウンティングが横行することは必然だったのかもしれない。
(橋爪けいすけ)