居酒屋大手のワタミは、20年4〜12月は既存店売上と既存店客数が共に60%超の減少で、21年3月期の決算は約116億円の赤字となる見通し。それでも宅食事業の健闘と大幅な居酒屋店舗の焼肉店への移行による効果に期待は持てるが、コロナも第4波到来と言わざるを得ない気配なので、やはりしばらくは我慢の状態が続くだろう。
そんな中の4月1日、ワタミでは渡邉美樹・会長兼CEOの長男の将也氏が最高財務責任者(CFO)兼上席執行役員に就任。将来的な“親子禅譲”の布石ではないかという見方がなされている。
「ワタミでは渡邉さんが政治家に転出するなどして一旦会社を離れ、アルバイトから大学を中退してワタミに就職した社長兼COOの清水邦晃さんに任せていましたが、『会社には1000%戻らない』と公言していた渡邉さんが前言を翻して19年10月に会社に復帰すると、翌20年の1月には将也さんを執行役員にし、さらに同年10月には取締役にしています。さらに今回の人事では、清水体制で営業企画本部長だった小田剛志氏が取締役から外れています。内部でどんな話し合いがあったかは不明ですが、まるで渡邉さんのオーナー企業が一旦は普通の会社になったものの、今度は先祖返りするかのようにファミリー企業に近づいているかの印象を受けます」(経済ジャーナリスト)
ワタミの役員欄を見れば、監査役を除いた取締役は渡邉氏と清水氏、そして将也氏の3人しかいない。創業者上場企業としてのガバナンスには疑問が残る特異な会社だ。さらに大株主を見ると、有限会社アレーテーが約25%を保有する筆頭株主。以下、5%を超える株を保有するのはサントリー酒類(約10%)、アサヒビール(約5%)のみ。アレーテーは渡邉氏の資産管理会社で、社長は将也氏と渡邉氏とその妻の3人が役員の会社だ。こういった構成を見れば、今回の人事が来るべき親子禅譲に備えたものと見られるのも当然だろう。
さてその将也氏の経歴を見ると、最初はスイス系の銀行に就職し、その後ワタミに転職した後、サントリースピリッツに転じている。サントリーとの付き合いを考えれば、これは他所での修業ということだろう。さらにその後、海外留学も経験したようで、マギル大学のMBAを取得している。着々と飲食業経営者としての帝王学を学んできたというところか。
「ただ今回はあくまで禅譲への布石程度と言えるでしょう。というのも渡邉氏はまだ61歳で、今の世の中ではまだまだこれからといった年齢です。しかも3月には政府復興推進委員会に就任したばかりと元気いっぱいで、岩手県の陸前高田市の参与をこの10年間努めてきた経緯もあって、その陸前高田に日本最大の有機農業テーマパークをオープンさせる予定なのでいろいろと対外的にも忙しいでしょう」(前出・ジャーナリスト)
だから息子により一層店を手伝わせて、早く一人前になって欲しいということなのかもしれない。
(猫間滋)