ファン以外だと「そういえば見なくなっていたなあ」くらいの認識しかないかもしれないが、ともかくずっと自粛状態だったパチンコのCMがこの4月1日から解禁された。実に10年ぶりのことだ。
10年前と言えばそう、東日本大震災の年だ。これ以後、テレビからは被災のムードにそぐわないコンテンツは自粛を強いられていた。もちろんパチンコも例外ではなく、加えて、原発停止による電力不足の中、多くの電力を消費するパチンコは目の敵にされたこともあって、以来、様々な事情も手伝ってパチンコ業界は自粛を続けていたのだ。
「ところが自粛を取り決めていたパチンコ遊技機メーカーの集まりである日本遊技機工業組合(日工組)の昨年12月22日の役員会でテレビ、ラジオ、新聞でのCM自粛を今年の3月31日で終了する決定がなされました。通達文には『遊戯業界を取り巻く現下の厳しい状況を踏まえ』とあるので、文字通り厳しい現状をどうにかしないといけないという危機感からなされた決定でしょう」(パチンコ事情に詳しいジャーナリスト)
かつてパチンコは「30兆円産業」と呼ばれたものだが、それも1996年段階の話。その後、売り上げは右肩下りが常態化し、2020年の「レジャー白書」によれば、前年比7000億円減の20兆円とされている。業界が危機感を覚えるのも当然だろう。
となれば、CM解禁はパチンコ業やCMを受け入れるメディア周辺の関係者にとって諸手を上げて喜ぶことかと言えば、実は事情は複雑なようなのだ。
「かつて業界の調子が良くてCMをガンガン流していた時代には、例えばそれまでは数ある深夜アニメの1つでしかなかった『創世のアクエリオン』が、パチンコ台のタイアップに採用されたことから逆に一般への知名度が広がるといった現象さえ見られました。ところが今では新台の販売計画をこなしていくのがやっとで、潤沢な宣伝費は見込めません。また自粛の間にメディア環境も変化、メーカーもより具体的なファン層に刺さるターゲットマーケティングでネットやプロモーションビデオに注力しているので、費用対効果を見極めた上でのCM出稿になるでしょう」(前出・ジャーナリスト)
また、それでも多くのCMを打つ体力がある企業とそうでない企業の差が大きく開いて、生き残り競争がますます激化するのではという見方もあるという。その辺りの事情はホールも同じで、CMを打った台は当然人気が出て高額になるので、高い台をたくさん仕入れることができるホールとそうでないホールの格差が表れて、ますます寡占化するのではないかとも見られているという。
だから、もしかしたらある意味でCM解禁は業界全体が縮小しかねないパンドラの箱なのかもしれない。
ちなみに解禁の通達には日工組が昨年10月に制定した「自主基準」を遵守することが求められていて、その基準によれば、宣伝文言の内容や字体、のめり込み防止標語の表示が定められていたり、午前5〜9時と午後5〜9時までのCMは不可とされているとか。
一見して明るい話題かと思いきや、なんとも世知辛い話になってしまうようなのだ。
(猫間滋)