「あの当時は純粋に自分のファンだと勘違いしていたんでしょうね。『あ、私って出待ちされるくらい有名になったんだ』って…。でも、今になって考えたら、ただの“性ハラ”ですよね。最近、ネットでもちょくちょくニュースになっているのを見て『私もギャラリーストーカーの被害者だったんだ』って思うようになったんです」
こう話すのはアーティストとして活動する30代のA子さん。関東の美術系大学を卒業後、アルバイトを続けながら作品作りに励み、1年に一度のペースで個展を開催してきたが、幾度となく性ハラ被害を受けてきたという。
表現者へのハラスメント実態を調査する「表現の現場調査団」が「表現の現場ハラスメント白書 2021」を公開したのは3月24日のこと。公式サイトに公開された「調査結果概要」によれば、美術家、写真家、俳優、声優といった「表現」に関わる人たちを対象に調査を行ったところ、回答者1449名中、1195名が「(何らかの)ハラスメントを受けた経験がある」とし、1161名が性ハラの被害経験があると回答したという。とくにアートの分野で顕著だったのが、「ギャラリーストーカー」だ。これは展示会などの場で女性アーティストにしつこくつきまとう迷惑行為だが、前出のA子さんはその実態についてこう振り返る。
「作風についてはあまり言いたくないのですが、女性のカラダをモチーフにした作品が多かったので、男性の来場者が多かったですね。ギャラリーというのは作品を見てもらうのと同時に、自分の作品を買ってもらう場でもあるんです。たまたま立ち寄ったという男性が10万円以上の作品をポンとキャッシュで購入してくれることも少なくありません。だから、ヘンな人にしつこく話しかけられても無下にはできない。ギャラリーのオーナーからも、『作品に関心を持ってる人がいたら積極的に話しかけて』と言われていましたから。でもちょっと気を許すと、毎日のように来場しては、『もっと作品のことを知りたいから飲みに行こうよ』とか迫ってくる人もいたりして…。私、いつも地味めの服装が多かったのですが、『もっとキワドイ衣装のほうが売れるんじゃない?』と謎のアドバイスをされたことも…。怖かったのは、展示時間が終わってギャラリーを出ると、いつも同じ人が待っていたこと。『あれ?偶然だね…』とか言って、帰りの電車までついてこられた時はホント怖かったですね」
前出の「表現の現場ハラスメント白書 2021」によれば、「卑猥な冗談を聞かされた」「身体を触られた」といった性ハラ以外にも、129名もの人が「望まない性的行為を強要された」と回答。なかには、ギャラリーのオーナーから性的関係を求められた女性もいたという。
「さすがにそこまで犯罪っぽいことに巻き込まれたことはありませんが、作品購入と引き換えにカラダを求めるような人はけっこういましたね。出張で東京に来たという美術愛好家の方から『これ買ったらホテルに来ていろいろ説明してくれる?』と誘われたこともあります。でもその一方で、“オンナ”を武器にして作品を売る人がいるのも事実で、男性をATMがわりにする女性作家さんもいます。私はあくまで作品を評価してほしいので、そうしたお誘いはすべてお断りしていますが、もしも100万円で(作品を)買ってくれるって申し出があったら、『デート1回くらいならいいか…』って考えちゃうかもしれませんね」(A子さん)
表現者と鑑賞者のコミュニケーションはおおいに結構だが、女性をモノとして扱うような性ハラ被害がなくなることを願ってやまない。
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