中国に日本人1億人の「個人情報」が盗まれた(3)日本政府は10年以上も放置

 なんとも空恐ろしいことだが、実はこうした危険性があることは、ずいぶん前からわかっていたという。それゆえ、A氏の会社はすぐにオフショアを取りやめた。同時に、業界にも情報漏洩の観点からオフショアは自主規制すべきだと働きかけた。クライアントの企業にも同様に訴えたが、ほとんどの会社が利益を優先し、安い労働力を選んでしまったというのだ。

 それにも増してA氏が驚き、呆れたのは政府の対応であった。政府調達─官公庁の入札も価格重視で決められ、情報保全の観点は黙殺されてしまった。かくして、安価な入札をしたメーカーがオフショア方式でデータ入力やデータ管理システムの設計等を行うことになり、それが10年以上も続いているというのだ。

 A氏は嘆息しつつ、こう続けた。

「その証拠に、データをハッキングされた日本企業は他にも数々ある。トヨタ、日産といった自動車メーカーはもちろん、東芝やシャープといったIT系の企業もあるほどだ。また、いまだ顕在化していないものの、実は相当量のデータが中国の餌食となっていると見られる会社がある。生命保険会社や銀行をはじめ、官公庁からも幅広く受注しており、しかもそれらをオフショアで行っている。官公庁からの受注には、マイナンバーや税務申告に関するものも含まれているだけに、中国側のデータが充実してしまったのではないか」

 その会社は、これ以外にも全国銀行データ通信システムや日本銀行金融ネットワークシステム、都銀キャッシュサービス、郵便貯金システム、東京証券取引所情報系システム統合基盤なども請け負っていた。

 これらがすべて中国に漏れているとすれば、身元の特定や携帯等のハッキングの危険性はもちろんだが、日々のお金の出し入れまで容易にわかってしまう。かつて富裕層の住居が中国人の犯罪グループに狙われたことがあったが、こうなると金銭目的でネットを利用した犯罪が増えてくるとみられる。特に、銀行などへの不正アクセスによる被害には要注意だ。

 A氏は、こうしたことを16年の時点で警告していたのだが、政府や業界をめぐる状況は、根本的に今も変わっていない、と繰り返した。

「書類の電子化が進むとともにデータ入力はかなり減ってきているが、代わりにデータ処理などを行うシステムの開発委託などが増えてきている。また、悪質なことに、日本年金機構の問題などが影響したのか、最近では中国への再委託がわからないよう、別の委託先を間に挟むなど、手口が巧妙化している」

 そのうえでA氏は、改めて警鐘を鳴らす。

「日本年金機構の件は氷山の一角にすぎない。あらゆる政府情報が危険にさらされている」

 政府、官公庁は傾聴すべきである。

時任兼作(ジャーナリスト) 

ライフ