倦怠感や息切れ、味覚障害、脱毛など、これまでさまざまな「コロナ後遺症」が報告されてきた。その深刻な症状は、脱毛とともに双璧を成す下半身の悩みにまで及んでいるようで…。
心筋梗塞や脳梗塞、腎不全など、生死に関わる症状のみならず、見過ごせないコロナ後遺症が、下半身の著しい不調である。新型コロナ重症患者の診察応援を依頼された、大学病院勤務の泌尿器科医が言う。
「自分が泌尿器科医であることを知った新型コロナ患者から、感染後に全く勃たなくなった、と打ち明けられました。集中治療室の医師には申し訳なくてそんなことは相談できない、看護師にも打ち明けられない。助からずに亡くなっていく患者さんがいるのに不謹慎ではないか、と遠慮されていたようです。別の若い男性患者からも、同じ相談がありました。厚労省と医療機関が連携して新型コロナ後遺症について患者に聞き取り調査をしていますが、質問項目にEDは含まれていません。自分から切り出しにくい症状ですから、潜在的にEDの後遺症を抱えている患者は多いのではないか」
ED外来を開設しているウェルビーイングクリニック駒沢公園の布施淳院長によれば、
「新型コロナで入院後、全く勃たなくなったとのことで来院した糖尿病患者さんに、ED治療薬のタダラフィルを処方したところ、機能が回復しました」
毛根が抜けることで「回復の見込みなし」と言われる脱毛と違って改善するならば朗報だが、
「新型コロナに感染したためにEDになったのか、入院治療のストレスか、新型コロナの身体的ダメージによる心理的ストレスか、どれが原因であったかはわかりません。が、もともと糖尿病による微小循環障害があるのに加えて、コロナ感染による炎症が上乗せされたとも考えられます。ED治療薬はPDE5阻害薬といって、微小血管を拡張させ、血流を改善させることでEDを治療しますが、このPDE5阻害薬は肺高血圧症など、呼吸器系の病気の治療にも使われている薬。微小血管の血流障害は新型コロナ肺炎とEDに共通する要素であり、新型コロナ肺炎の後遺症でEDになるというのは理論的にはあり得ます。世界中で流行していますから、これからそうした後遺症のデータが集まるかもしれません」(布施院長)
こうしたEDには、男性ホルモンの数値低下も関係していると思われる。
欧州泌尿器科委員会の指導医で、トルコのイスタンブール研修研究病院のムスタファ・カジハサノル医師ら研究グループが昨年11月に発表した論文によると、〈新型コロナ感染で肺炎を起こした患者に、男性ホルモンの低下が見られた〉という。そして、
〈肺炎を起こした患者を重症度別に比較すると、血中酸素飽和度が下がった重症患者ほど男性ホルモンの分泌低下が見られ、呼吸症状と低酸素血症の重症度と男性ホルモンの低下には相関関係があった〉と結論づけているのだ。
ところで、新型コロナウイルスは肺と精巣に感染しやすいのではないかという仮説は、新型肺炎が「謎の肺炎」と言われている頃から指摘されていた。中国でバタバタと原因不明の肺炎で死んでいった患者を解剖したところ、生殖部の損傷が激しかったからだ。
昨年6月、中国の華中科技大学同済病院生殖医学センターの李豫峰教授らの研究チームは、〈新型コロナウイルス表面のスパイクタンパク質と、感染者の体内のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)が結合して細胞に侵入し、臓器を損傷させる〉と新型コロナの感染メカニズムを発表したが、同時になんと、男性不妊のリスクにも言及している。
〈ACE2は肺以外にも精巣、小腸、腎臓、心臓と甲状腺にあるが、特に精巣は大量のACE2を発現している〉
事実、大規模なコロナ陽性患者を調査したところ、完治したかに見えた男性患者の生殖関連の体液から、新型コロナウイルスが見つかったという。
スパイクタンパク質とは、ニュースなどで見かける新型コロナウイルス写真の、ウイルス表面にあるツブツブのことだ。あの突起が人間の臓器の表面にある酵素ACE2にくっつき、感染する。
不妊といえば、日本国内でも一部の医師が「ワクチンを打つと不妊になる」とネット動画などで不安を煽っているが、さすがに医師免許をはく奪されてもいいレベルのデマと言える。
ワクチンを打つと不妊になるどころか、海外の症例研究を読めば、男性機能と大事な精巣を守るために、ワクチン接種であらかじめ新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を殲滅させる抗体を作っておくことが重要なことがわかる。
YouTube「米国内科専門医 安川康介の医学チャンネル」で、米国の新型コロナ治療最前線とワクチン接種の現状を伝えている安川康介医師によれば、
「接種部位が腫れたり熱が出るのは、体内で免疫が反応している証拠。過去にファイザー社に勤めていた研究者が、ワクチン接種で女性が不妊になる可能性があるのではないかという科学的根拠の乏しい情報を流し、これが広がってしまいました。ワクチンによって体の中で作られるスパイクタンパク質に対する抗体が、胎盤にあるシンシチン-1というタンパク質にも反応してしまう可能性があるという主張でしたが、実際にはこれらのタンパク質は全く似ていないため、ワクチンによってできる抗体が胎盤を攻撃することはないと考えられています。実際にファイザー製やモデルナ製のワクチンを接種した女性がその後、妊娠していることも報告されています」
新型コロナワクチンを製造、あるいは臨床試験中のファイザーやイーライリリーはそれぞれ、バイアグラとシアリス(タダラフィル)というED治療薬を販売している。ED治療薬は飲んでも、ワクチンは信用ならない、というのは冷静に考えれば、矛盾に富んでいることに気付く。
我々がワクチンを接種するまでに、まだ時間はある。デマに惑わされず、ワクチンを打つかを考えたい。
(看護師/医療ジャーナリスト・那須優子)