保健所には連絡しても…ピンク嬢がCOCOAに「陽性登録」できない理由

 厚生労働省主導のもと、一説では4億円もの費用をかけて開発されたとされている、新型コロナウイルス対策のスマートフォン向け接触確認アプリ「COCOA(ココア)」。このアプリは、コロナ感染が発覚した人が、「自分は陽性である」と周知するために保健所から発行された処理番号を自己申告でアプリに入力し、その陽性者と過去に接触していたユーザーに対しても「陽性者と濃厚接触の可能性アリ」と通知が送られるというものだ。

 そのアプリの不具合が、4カ月間も放置されていたと厚生省が発表したのは2月3日のこと。昨年9月から陽性者との接触検知やユーザーへの通知が機能していなかったという。

 当初、不具合が生じているのは「Android」版だけとされていたが、12日の会見で平井卓也デジタル改革担当相は、「iPhone」版でも同様の問題が起きている可能性があると発表。加えて、開発にいたっては「多重下請け」による中抜き問題なども指摘されており、政府やCOCOAへの信用低下は今後も懸念材料となりそうだ。

 しかし、ITジャーナリストは、そもそも今回の取り組みには重大な欠陥があったと解説する。

「1月21日に読売新聞が発表した記事によれば、COCOAのダウンロード数が約2430万件なのに対して、感染の登録はわずか9430件ほど。その時点での国内感染者数が約37万人であることを考えると、陽性が判明しても申告しない人が多かったことがわかります。それもそのはずで、アプリのダウンロードも処理番号の入力も義務化されているわけではありません。プライバシー保護の観点から、ユーザー登録の敷居を低くしている点も大きい。このアプリは、ユーザー数が多ければ多いほど効果を発揮するという仕組みでしたからね。しかし、陽性者が必ず自己申告するという性善説の前提がそもそもおかしい。義務でなければ、申告しない人が出てくるのは当然のことで、もはやアプリの精度以前の問題といえます」

 北関東でピンク嬢として働くA子さん(24歳)も、約2カ月前に自主検査で陽性と判明したが、COCOAに処理番号を入力することはなかったという。

「陽性であることを隠して、後で治療が受けられなかったりするのが怖かったので、勤め先の店名などは行政(保健所)に正直に報告しましたが、COCOAには登録しませんでした。もし、コロナに罹ったことをお店の人たちに恨まれて働きづらくなっても、最悪職場を変えればそこまでダメージはありませんが、ご近所にバレるのは死活問題ですから」

 A子さんが勤務するピンク店はデリバリー形式で、待機所を駅前のネットカフェにしていたため、他のスタッフは濃厚接触者に認定されず、陽性者は一人も出なかった。それでも、A子さんがCOCOAへの入力をためらったのは、ある噂が影響しているという。

「私はずっと地元に住んでいて、狭い団地で母と2人暮らし。それでCOCOAに登録すると、隣の部屋や団地全体に陽性通知が広まるなんて話を聞いて…。ピンク業界で働いていることや陽性だったのがバレたら、もうこの街では生きていけません。そうなると引越しなども必要だし、そんなお金の余裕もありませんからね。同じような境遇の人は意外に多いと思います」

 厚労省のホームページによれば、「1m以内で15分以上」の濃厚接触者に通知が届くシステムになっているようだが、SNS上では「誰とも接触していないのに通知が来た」「アパートの隣人がコロナになっただけで通知が入った」との情報が見受けられる。現在、運用事業者はCOCOAの不具合修正に取り組んでいるが、アプリそのものの信頼回復とともに正しい情報を広めることが急務かもしれない。

(橋爪けいすけ)

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