大地震で崩壊する「81年耐震基準」神話(3)低層よりも危ういタワマン

 南海トラフ地震によって首都直下地震までが引き起こされれば、東京、大阪の2大都市で甚大な被害が想定される。まずは当然、旧耐震基準の建物の倒壊だ。

 都会は全国平均と比べて新耐震の建物の割合は多いとされるが、隈本氏はこう語る。

「大都市の繁華街には、旧耐震のコンクリート製の雑居ビルなどが相当数残っています。例えば銀座。表通りにも裏の飲食店街にもまだ旧耐震のビルが多いと思います。歌舞伎町や大阪の繁華街も同じ。地価が高く、間口が狭いので補強工事も難しい。こうした場所で古いビルが被災すれば、さらに被害が拡大することも想像できます」

 ならば2000年基準で建てられた、最新鋭の耐震設計が施された超高層ビルやタワーマンションだったらどうか? 連動型地震に被災しても大丈夫なのだろうか。隈本氏は、そうとも言い切れない、と語る。

「端的に言えば、まだ世の中に巨大地震を複数回経験した超高層ビルがないからです。先述したように、1回目の地震で何らかの損傷があった場合、次の地震でどんな被害が出るかは誰にもわかりません」

 また高層ビルはその構造上、ある弱点もはらんでいる。それは「長周期地震動」と呼ばれる、大規模地震の際に観測される、ゆっくりとした大きな揺れだ。

 長周期地震動は、地上付近よりも高い場所の方がより強く影響を受けやすい。細長い棒を持って左右に揺らすと、その先端が大きく振れるのと同じ理屈だ。14階建以上の建物が被害を受けやすく、揺れの大きさにより1から4までに階級が分けられている。

「長周期地震動は震源から遠く離れた場所にも揺れが伝わりやすいという特徴があります。11年の東日本大震災では、震源から800キロ離れ、地表の震度が3だった大阪で、55階建のビルが長時間揺れて天井など300カ所が損傷、エレベーターも止まったというケースもありました」(隈本氏)

 超高層ビルやタワーマンションは、もともと地震のガタガタという揺れには強く設計されているが、長周期地震動ではよく揺れる。今回の能登半島地震でも、震源地付近で長周期地震動階級が最大の階級4を記録、石川県加賀地方や新潟県や富山県、長野県までの広い範囲でそれに次ぐ階級3となった。

「長周期地震動階級を発表する体制が昨年整ってから初めて今回の地震で最大の階級4が発表されたことで、戦々恐々としているタワマン関係者は多いと思います」(隈本氏)

 地震でエレベーターが動かなければ、高層階では避難がより困難になる。おまけに自室に気軽に耐震補強を施すこともできず、低層マンションや一戸建より、タワマン住民の方がむしろ被災時に置かれる状況は悪い。果ては周囲を巻き込み、根元から倒壊する─そんな地獄絵図すらあり得るのだ。

(つづく)

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