コロナ陽性患者「自宅待機」の天国と地獄、同居家族が見た危険な兆候とは?

 東京都内の新規感染者数は連日1000人を下回るなど、1月上旬のコロナパニックは下火になったかに見える。ところが入院を待つ陽性患者の自宅では、大異変が起きていたのだ。

「これが待機死なんだと思いました」

 こう明かすのは、家族が新型コロナに感染し、パニック状態に陥った首都圏在住のAさん。80代という年齢相応の認知症と高血圧、心臓病などの持病を抱える父親が新型コロナ陽性と分かったのは、先月のことだった。Aさんが続ける。

「指先で体内の血中酸素濃度を測るパルスオキシメーターを貸与されましたが、正常値100~96%のところ、80%台まで落ちることも。眠っている時もハアハアと息が切れ、体を起こせないのを心配した家族が声をかけると、本人はふわふわっとしている。息切れをしているわりには機嫌が良くて、苦しそうでもない。何が起こっているのかと、混乱しました」

 新型コロナに限らず、肺炎などで脳が酸欠状態に陥ると、脳は快楽物質のドーパミンを分泌。命の危機に直面しているにもかかわらず、本人は多幸感に満たされる。Aさんの父親も「ハッピー・ハイポキシア(幸福な低酸素)」という危険な状態にあったのだ。

 反応は遅いものの会話には応じ、機嫌がいいから周りは新型コロナが重症化しているとは考えない。ところが、実際には肺炎が進行しており、突如、意識を失って倒れる。ニュースで見聞きする、自宅待機中の軽症患者がそのまま亡くなっていたという悲劇は、こうして起こるのだ。

 ニュースでは「酸素濃度が95%を切ったら病院へ行け」と報じているが、

「その程度では、保健所は入院の手配をしてくれない。高齢者でも軽症扱いです。先日、隣の町内で倒れた方がいて救急車を呼びましたが、行き先が決まらない。救急車は1時間以上、動きませんでした」(Aさん)

 そしてAさんは、「朝起きて父親が息をしているか、確認するのが怖い」と言う。

 コロナ待機、自宅療養と簡単に言うが、実は自分が住む自治体と保健所によって、対応の手厚さに天国と地獄ほどの格差がある現実をご存知だろうか。

 菅内閣の緊急事態宣言とGoTo政策の中止が遅きに失して、GoToイートを活用した宴会で感染を拡大させた陽性患者の聞き取りと、PCR検査に保健所が手間と時間を割かれた結果、市中に無症状の感染者が溢れ返ってしまった。

 今、保健所は、病院や宿泊施設に入れない待機患者の体調確認や、民間のPCR検査で陽性と判明した新規陽性患者の情報収集だけで手一杯の状態だ。

 このため専用窓口に電話が繋がらず、在宅死を待つしかない自治体がある一方、東京都港区や大阪府、愛知県のように、自宅療養中に業者が弁当を宅配、対面での手渡しはできないものの、インターフォン越しに安否確認する自治体もある。あるいは東京都墨田区も、区職員が自宅療養中の患者に食料を届けている。自分がコロナにかかった時、孤独死、在宅死するかどうかは「おらが町」の対応いかん。つまりは運次第という側面があるのだ。

 コロナ患者を診察する都内の開業医によれば、

「入院の手配が追い付かないため、重症リスクの高い高齢者の病状把握に、地元医師会の協力を仰いでいる保健所もあります。結局は、保健所の責任者が機転を利かせられるかどうか」

 では地獄を回避するため、何をすべきなのか。

 地獄を見たAさんと同じく在宅介護をする、Bさんの例を見れば明らかだ。

 Bさんの親は、通っている施設で感染者が出たため、2週間の自宅待機措置となった。そして手が回らないことを理由に、保健所から投げ出されてしまう。どうなったのかといえば、

「いつもお世話になっている開業医が往診に来てくれて、安心しました。万が一に備えて、解熱剤も処方してもらいました」(Bさん)

 かくいう筆者もコロナ陽性となった際、

「病院も紹介できない。PCR検査もしない。開業医に行って。発熱患者に対応している開業医? そんなもの、教えられない」と電話口で繰り返す保健所の塩対応を、実際に経験している。

 何を相談しても断るだけの保健所より、かかりつけ医や地元医師会の対応時間帯に電話相談をして往診や受診可能な医療機関を教えてもらう方が、命拾いする確率は高い。急変して意識を失ってから保健所が入院先を手配しても、すでに内臓へのダメージは大きく、救命率はグッと下がるからである。

 開業医が診察した結果、コロナ専門病院への入院手配や、疑い患者へのPCR検査依頼をすることもできる。保健師がルーティンで空きベッドを探すより、医師が地元のコロナ治療病院に連絡し、急変患者の搬送先を探す方が断然、早い。

 開業医は言う。

「知り合いの小児科クリニックの院長は、閉院を決めました。長年、大学病院に勤務していて院内感染予防や感染症にも詳しく、新型コロナの流行以降は、大人のコロナ疑い患者さんも診ていたのですが‥‥。地域の人達は先生の経歴を知らないですからね。ご本人は『子供を持つ親御さんが怖がって、小児科に寄り付かなくなってしまった。予防接種の件数も減った。病院にかかれず困っているコロナ疑いの発熱患者さんも、お子さんたちが帰った後なら診られるんだけどね』と寂しそうでした。開業医はコロナ患者を診ないかのように報じるマスコミの誤報は罪深いです」

 東京都医師会の尾﨑治夫会長も、

「医師会は何もやってこなかったと言われているが、大病院や診療所も含めて、やれることを精一杯やってきたつもり。民間、大学、国公立も協力して難局に立ち向かって行かないと。医師会が悪いといって分断する流れを作る方もいる」と断じている。

「今の新規感染者数は見かけ倒し。介護施設のクラスターやその濃厚接触者のPCR検査が主流で、ウイルスをバラ撒いている無症状の陽性患者を、保健所が全く追えていません。そして、それが変異株ということも。緊急事態宣言が解除された後に会食が増えれば、また感染者数は爆発的に増加します」(開業医)

 地獄へと叩き落とされないよう、緊急事態宣言が出ている間に、かかりつけ医を見つけておこう。

(看護師/医療ジャーナリスト・那須優子)

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