日本国内の医療機関が、かつて経験したことのない災禍に見舞われている。
新型コロナウイルスの爆発的な院内感染を起こした東京都台東区・永寿総合病院。4月22日には院内で医療従事者を含む200人以上が感染し、30人の入院患者が死亡したと公表した。
亡くなった患者の遺族は、こう無念さをにじませる。
「もともと持病が悪化して入院していたのですが、電話で『風邪をひいたみたい』という話を聞いたのが最後になりました。ちょっと熱っぽいと話していたと思ったら、2日後に病院から連絡がきて『本人はもう話もできない状態』と伝えられた。説明する看護師さんも混乱していて、何が起きているかわかっていない状態。お互いに何を話しているのかわからないまま、電話を切りました」
詳しい説明を求めようにも、感染爆発が起きた院内には入れない。病院の外で話を聞こうと試みるも、病院職員の誰が感染しているかわからない。説明を求めて食い下がれば、みずからも感染する危険があった。
「病院の外に出てくる看護師に、そそくさと着替えを渡すのがやっとでした。会話もありません」(前出・遺族)
大切な家族の死に顔も見られず、亡くなったとだけ知らされ、1週間後に遺骨が帰ってきた。いまだ茫然とするだけで、家族を失った実感もないという。
なお、同病院では、新型コロナの感染源は中国人観光客を乗せたタクシー運転手が開いた新年会と、フランスからの帰国者であると結論づけられている。
濃厚接触者として自宅で経過観察中の同病院看護師に話を聞いた。
「厚労省の見解には首をかしげる点もあります。感染源とした屋形船の患者とフランスからの帰国者の他にも感染が疑われる患者が入院してきて、別の病気で入院中の患者と同じ大部屋、同じ病棟に入れられました。院内では職員同士が目を合わせて『ヤバくない?』となった」
嫌な予感は当たり、陽性患者が入院してちょうど2週間後、潜伏期間を測ったかのように突如、入院中の患者が熱を出し始めた。この看護師が証言を続ける。
「朝晩の検温で発熱する患者がブワーッと増えたのです。最初は数人、もともと状態が悪く入院していた患者でした。持病がいよいよ悪化したと様子を見ていたら、夕方には起き上がれないほどに、みるみる悪化していきました」
だが、そこからが地獄絵図の始まりだった。
「『なんだかダルい、体がつらい‥‥午前中にそんな話をしていた患者が、夕方に病室を訪れると、すでに意識を失っていたのです」(永寿総合病院の職員)
そんな光景があちこちの病室、あちこちのベッドで見られ、次々と発熱の報告が寄せられる異常事態。あまりの恐怖に、ナースステーションは凍りつき、パニックにすらならなかったという。
「防衛本能なのでしょう。感情は麻痺して、ワケもわからないまま、ただ手だけが動いていました。当時のことを聞かれても思い出せません。前日まで話をしていた患者さんが突然苦しみだし、あるいはグッタリして意識を失い、動けなくなる。ずっと涙を流す同僚もいました。自身も陽性反応が出た同僚の中には、『これで地獄から抜け出せる』と言う人もいました」(前出・看護師)
常に患者の死と向き合ってきた看護師でも耐えられないのだ。さらに続けて、
「自分もそうです。濃厚接触者になり、勤務から解放されてホッとしたというのが正直な気持ち。これで家族にうつす恐怖もなければ、あの病棟に出勤しなくてもいい。職場復帰できる自信はありません。実際に『(子供の)保育園も学童保育も断られる。もう耐えられない! 辞めさせてください』と絶叫し、病院に申し出る人も見かけました」
新型肺炎ドミノはいつ終息を見せるのか。