世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉阪神ドラ1佐藤以上に目を引く男

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 緊急事態宣言の延長が決まり、僕もプロ野球キャンプ地の沖縄、宮崎に行くのをやめようと思っている。今は時間があればCS放送のキャンプ中継を見ているけど、いつもならグラウンドに降りて、各選手の体を実際に触って「たくましくなったな」と声をかけたり、打撃練習の打球音をチェックしていた。でも、今年はキャンプ取材に行ってもスタンドで見るだけで、評論家もグラウンドに入れない。今は無事に開幕することを願って、我々も我慢するしかない。

 阪神の宜野座キャンプの中継ではドラフト1位の佐藤輝のフリー打撃に注目した。やっぱり、よく飛ぶ。矢野監督がどうやって育てていくか楽しみやね。それともう一人、目を引いたのがドラフト6位の中野拓夢。三菱自動車岡崎から入団した24歳で、プロフィールには身長171センチ、69キロとなっている。体は小さいけど、フリー打撃では引っ張った強いライナー性の打球を放っていた。佐藤輝のように派手なホームランはないけど、軸がぶれない実戦向きのバッティングをしている。

 関係者によると、足が速く、二遊間の守備が売りの選手という。でも、打撃練習を見ていると、代走、守備要員だけでなく、レギュラーも狙える力がある。二塁は糸原がほぼ確定やろうけど、遊撃のレギュラーは決まっていない。木浪、小幡、山本、北條と同じぐらいのレベルの選手が多く、中野が加わればさらに競争は激しくなる。特に阪神の場合は3年連続でチーム失策数がリーグワーストで、中野が実戦で守備力をアピールすれば、開幕ショートも十分にありうる。守れるショートなら打率は2割5分、6分でも使いたくなる。

 足や肩というのは天性のもので、大きく変わらない。ところが打撃はプロで開眼することがある。僕がそうやったように、アマチュア時代は打つほうは今ひとつでも、いい指導者に巡り合って理にかなったスイングを身につければ、ガラッと大変身する。阪神で例を言えば、赤星も社会人野球からドラフト4位入団やったけど、1年目からレギュラーで活躍した。当時の野村監督が足にほれてのドラフト指名が見事にはまった。一芸を持っている選手は、掘り出しモノになる可能性があるということ。

 赤星の入団は、ちょうどセンターのレギュラーの新庄が米球界挑戦で抜けたとき。プロで成功するにはタイミング、運も大事。力があっても、同じポジションに不動のレギュラーがいれば、ほぼチャンスはなくなるわけやから。中野にとっては、巨人OBの川相が内野守備の臨時コーチで来ているのもプラスになるかもしれない。川相が中野の守備力を高く評価すれば、矢野監督も使ってみようかなとなるはず。

 それにしても、川相を臨時コーチで招くとは思い切ったことをした。昨年は中日OBの山本昌が臨時投手コーチになっていたけど、阪神にとって巨人は宿敵の関係。阪神OBや現職のコーチは複雑な思いがあるかもしれん。でも、僕は強くなるためには変なプライドは捨てていいと思う。内野守備だけでなく、バントも伝授してもらえるし、いい人事やと思う。内野だけでなく、外野の守備も教えてもらえばいい。川相なら外野の打球の追いかけ方やカットマンの入り方など、中継プレーをしっかり教えてくれるはず。川相効果でどう変わるか楽しみやね。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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