「朝まで生テレビ! 」などの討論番組をはじめ、新聞・雑誌・ラジオとあらゆる媒体から提言を行ってきた田原総一朗氏。新型コロナによる未曾有の社会不安と政治不信が広がる現在を、田原氏の目はどう捉えているのか。天性のジャーナリストに天才テリーが聞く!
テリー 菅政権のここまで、どうご覧になってますか。
田原 2年前に安倍(晋三)さんが3選したあと、「田原さん、ポスト安倍は誰がいいと思う?」って言うからね、僕は「菅(義偉)さんだ」と言ったの。
テリー 安倍さんに? へぇ。なぜですか。
田原 まず、世襲じゃない、と。自民党の政治家、世襲が多いじゃない。安倍、麻生(太郎)、小泉(純一郎)、みんなそう。それからエリートじゃない、と。エリートじゃない連中は、変な野心を持ってたりするけれども、それがないから7年以上も官房長官に使った。「信用してるんだろう?」と。だから、「菅さんがいい」と言ったらね、安倍さんが「僕もそう思う」と。
テリー そうすると田原さんは菅政権誕生にひと役買ってたんですね。じゃあ、石破さんは?
田原 この間、石破さんに会って、僕は「あんた、可能性あるから頑張れよ」って言ったの。自民党で安倍さんをまともに批判したのは彼しかいない。「だから、安倍さんはあんたのことをライバルだと思ってる。つまり、ポスト安倍としては絶対に選ばない」。
テリー 実際そうでしたね。
田原 「でも、菅さんはライバルだと思ってないから可能性はあるぞ」って。
テリー 今の自民党はイエスマンが多いから。石破さんには期待してるんです。
田原 自民党の国会議員はみんな安倍のイエスマンだからね。やっぱり小選挙区制になったのがよくない。小選挙区制は1つの選挙区から1人しか出られないから、自民党の執行部に公認されないと当選できない。だから執行部にゴマをするようになる。全員、安倍にゴマすって、森友事件が起きようと、加計が起きようと、桜が起きようと、誰も安倍の批判をしない。
テリー 不健康ですよね。
田原 だらしないね。
テリー 元の中選挙区制には戻せないんですか。
田原 第二次安倍政権の時に、幹事長だった石破にそう言ったの。そうしたら、「確かに今の自民党は腐ってるけれども、中選挙区制には反対だ」と。なんでかと聞いたら、中選挙区制の時はやっぱり表に出せない金が必要だった。今、金はかからない。
テリー うーん。
田原 で、2代目の幹事長、谷垣(禎一)にね、「中選挙区制とは言わないけども、選挙ルールを変えろ」と言ったら「やります」と。ところが、しばらくしたら、「田原さん、困った。今の選挙区制で当選したから、選挙制度を変えるのに野党も与党も反対だ」と。で、「なんとかやれよ」って言ってるうちに、(自転車)事故を起こして辞めちゃったのよ。
テリー そうかぁ。
田原 アメリカが羨ましいよ。あのトランプが落選だからね。緊張感がある。自民党はまったく緊張感がないから、安倍内閣が次から次へああなった。安心しきってしまった結果だね。
テリー 僕は政治家に大切なのは、国をどうするかっていう将来のビジョンだと思うんですよ。菅さんはデジタル化の推進とか、耳触りのいいことはやってるけど、国全体の50年後を考えてるかっていうと‥‥。
田原 自民党の歴代総理大臣は誰も考えてない。
テリー そうですよね。
田原 だから、問題はいっぱいあって。例えば安倍さんの3選後、経団連会長の中西(宏明)さん(日立製作所)、トヨタの社長、パナソニックの社長、みんな安倍さんを応援した。大危機感を持ってるんだよ。このままだと10年後には、日本の会社は全部なくなっちゃう。第3次IT革命で日本は落ちこぼれて、今、世界のトップ50社に入ってるのはトヨタだけ。で、数年後に第4次産業革命が起きたら、日本は完全に落ちこぼれる。だから、日本の産業構造を抜本的に改革しなきゃいけない。
テリー いや、ほんとにそうなんですよね。
田原 それともう1つ、日本の安全保障について、歴代首相は全然考えてない。今まではアメリカと仲よくしておけばよかったから。
テリー 今、アメリカは昔ほど力がないですけどね。
田原 だから、そこが問題。オバマが大統領の時、「アメリカは世界の警察をやめた」と言った。トランプは「アメリカがよければ、世界はどうでもいい」、しかも「日米同盟はアメリカが損だ」と言ってる。だから、2019年にボルトン(国家安全保障問題担当大統領補佐官、当時)が来て、「トランプが再選したら米軍の駐留費用を4倍にふっかけてくるだろう」と。
テリー 言ってましたね。
田原 で、4倍ふっかけても日本を守る気はない。だから、今や日本は初めて日米安全保障について真剣に考えざるをえなくなった。
テリー そうですよね。
田原 それで去年の6月に安倍さんに「安全保障を真剣に考えざるをえない。自衛隊をどうするのか」と聞いたら、安倍さんも「そのとおりだ。田原さん、ちょっと一緒にやりましょう」と。で、8月3日に電話したら秘書官が出て、「田原さん、オフレコだけど、今、総理、体調が悪いんだ」と。それで辞めちゃった。で、今、菅さんに同じこと言ってるんだけど、今のところ返事はない。
テリー バイデンさんでまた状況は変わるんですか。
田原 変わらないよ。だから、日本は戦後初めて考えなきゃいけない。といっても僕はね、軍備拡張反対だし、核兵器を持つのも反対。だから去年の秋から、枝野(幸男)と志位(和夫)に、「野党は今まで安全保障をまったく考えてこなかったけれども、イデオロギーに関係なく考えなきゃいけない」と。これは自民党、立憲民主党、共産党、国民民主党が一緒になって考えなきゃいけないの。
テリー それ、枝野さんは何と言ってるんですか。
田原 やるべきだと言ってる。志位も言ってる。
テリー でも、共産党は自衛隊については‥‥。
田原 今、認めてるよ。で、今や志位は枝野に「連立政権を作るためにはどんな妥協でもする」と。天皇制も認めてるからね。
テリー 具体的に、日米同盟はどうすればいいんですか。
田原 だからアメリカに、続けたほうが得だと思わせなきゃいけない。それは僕、構想があるのよ。要するに今、米中対立でしょ。で、アメリカは下手すると太平洋を中国に取られるんじゃないかと恐れてる。だから、まず日本はASEANと仲よくする。それからインド、オーストラリアとも。で、アジアが自立して太平洋を守れば、中国に取られないから、アメリカも日米同盟は続けたい。で、これはアジアの自立だから、中国包囲網でもないし、中国にも悪い話じゃない。だから、これはアメリカと中国、双方にとって悪いことじゃないと思う。
田原総一朗(たはら・そういちろう) 1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所を経て、63年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に入社。77年、フリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ! 」「サンデープロジェクト」などで新しいテレビジャーナリズムを開拓。現在も「朝まで生テレビ! 」、「激論! クロスファイア」(BS朝日)のほか、テレビ・ラジオ、コラム執筆など多方面で活躍。近著に、「90歳まで働く─超長生き時代の理想の働き方とは?」(クロスメディア・パブリッシング)など。