世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「梶谷のFA獲得は陽岱鋼の二の舞」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 やっぱり隣の芝生は青く見えるんかな。DeNAの梶谷を巨人がFAで獲得した。報道によると、4年総額8億円の破格の条件だという。原監督は「私の理想の中では1番・梶谷、2番・坂本、3番・丸、4番・岡本」と、さっそく来季の構想を披露していた。正直、もったいないと思うのは、2020年の終盤に定着した吉川尚、松原の1、2番コンビに早くも見切りをつける形になること。1年の経験を糧にして、来シーズンはもっと期待できると思うんやけど。

 2人とも1年間、試合に出続けたのは初めてやった。吉川尚が打率2割7分4厘で11盗塁、松原が2割6分3厘、12盗塁。梶谷の打率3割2分3厘、14盗塁に比べたら見劣りするけど、そこまで悪い数字ではない。来年が26歳という年齢を考えても、いちばん成長する時期。2人とも3割、30盗塁をする能力が十分あり、経験を積めばリーグを代表する1、2番になる可能性がある。

 原監督の中ではソフトバンクにリベンジを果たすための補強やと思う。ソフトバンクとの日本シリーズでは第3戦まで1、2番で起用した2人を、第4戦はスタメンから外した。でも初めての大舞台でなかなかいい結果を残せるものではない。日本シリーズはふだんの試合と緊張感がまったく違う。ソフトバンクの栗原のように初戦で勢いに乗ればいいけど、いったんリズムが崩れると立て直すのは難しい。屈辱的な4連敗の戦犯にするのは気の毒や。

 一方で梶谷からしたら、笑いが止まらん。規定打席到達で打率3割をクリアしたのはプロ14年目で初めてやった。筒香がメジャーに挑戦してなかったら、出場機会はもっと少なかったかもしれん。FA市場に他の大物野手が出回らなかったのもラッキーやった。今季の年俸は7400万円で、本来なら倍増の1億5000万円に届けば御の字。それが、4年総額8億というんやから、自慢のヒゲを剃り落としてでも移籍したくなる。

 しかし、巨人も梶谷も、そう思いどおりにいかないとみている。陽岱鋼と同じ失敗を繰り返す危険性は大いにある。陽は16年オフに5年総額15億円といわれる条件で日本ハムからFA移籍したけど、まったくの期待外れ。20年も38試合の出場で打率2割3分8厘のさんざんな内容。陽岱鋼が不動の1番に定着していれば梶谷を獲得する必要はなかったし、18年オフの丸の獲得もなかったかもしれん。丸も成績自体は広島時代のほうがいい。20年も2割8分4厘と、移籍後は2年連続で3割を下回った。

 巨人に移籍して、今まで以上の成績を残すのは並大抵のことではない。やっぱり巨人は巨人。他のチームは目の色を変えて倒しにくるし、対戦投手もエース級が投げてくることが多い。ファンの多さ、マスコミの注目度など、プレッシャーが全然違う。

 そういう意味でも梶谷に期待するより、若手のケツを叩いて育てたほうが、長い目で見ればプラスになる。外野のレギュラー候補は松原だけでなく、増田大も魅力がある。主に代走で23盗塁をマークした脚力はリーグでも屈指。外野で凡ミスしてから先発出場が減ったけど、守備は練習すれば必ずうまくなる。我慢して使えば、周東のようにブレイクする可能性がある。梶谷加入が若手の発奮材料になれば、それこそ安い買い物とも言えるんやけど。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

スポーツ