世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉「残留!大野雄と山田哲は雲泥の差」

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 今年は比較的静かなFA戦線となった。手を挙げていれば争奪戦が確実だった中日・大野雄、ヤクルト・山田哲の投打の目玉二人が早々と残留を決めた。二人とも球団の顔やし、ファンにとっては喜ばしい選択となった。

 今年の大野雄の活躍はすばらしかった。11勝で防御率は12球団トップの1.82。特筆すべきが、20試合に登板して、10完投、6完封。投手分業制の時代におみごとと言うしかない。過密日程の中で例年以上にリリーフ陣も過酷なシーズンとなっただけに、一人で投げきってくれることでどれだけチームが助かったことか。8年ぶりAクラスの立役者やな。菅野との一騎打ちを制して沢村賞を獲得したのも、当然の結果やった。

 報道によると、年俸は今季の1億3000万円から倍増以上の3億円プラス出来高払い、3年契約になるという。コロナ禍で各球団とも経営状況は苦しいが、移籍を決断すれば、中日以上の条件を提示されていた可能性がある。残留を決意したのは、エースとしての責任感もあったはず。自分のことだけ考えている選手なら、あれだけ完投できない。そして、その思いを支える技術もある。長いイニングを投げられて故障もしないということは、理にかなった投げ方をしているから。現役では球界ナンバーワン左腕と言ってもいい。

 一方、山田哲のほうは残念なシーズンやった。94試合で打率2割5分4厘、12本塁打。FA取得年は張り切る選手が多い中で、首をかしげる成績となった。7月末には「上半身のコンディション不良」という球団からの説明で、戦列を離れた。この説明にはファンもモヤモヤしていると思う。「腰が痛い」とか「脇腹が痛い」とか、ファンのためにも具体的な説明責任があるはず。でも「コンディション不良」は、ヤクルトだけでなく他球団も使っており、最近のはやりとなっている。「違和感」や「張り」という理由で休む選手に、それこそ僕は違和感を覚えていたけど、また新しい表現方法が出てきたわけや。症状は本人にしかわからないものの、プロが休む理由としては情けない。長いシーズンは多かれ少なかれ、痛みや故障を抱えながらプレーしているんやから。

 山田哲は7年契約という異例の長期契約を結ぶという。契約の詳しい中身はわからないが、最低限の保証だけしてもらって、成績を伴わないシーズンは給料が下がる契約にしたほうが、モチベーションの維持につながると思う。28歳でいちばん脂の乗りきったいい時期。来季はフル出場で、4度目の3割30本30盗塁を達成してほしい。ファンが望む成績を残すのが本物のスター選手。山田哲の場合はトリプルスリーを達成して初めて、合格点のシーズンとなるんやから。

 山田哲が負けられない相手が球団内にもいる。20歳の村上は2年続けての全試合出場で、打率3割をクリアした。28本塁打、86打点も4番として文句なしの成績やった。4年目の来季は3冠の期待もかかる。山田哲も存在感を見せないと、ヤクルトの顔は村上に取って代わられる。38歳のベテラン青木も規定打席に到達して、リーグ3位の打率3割1分7厘の好成績を残した。来年、山田哲が復活すれば、村上、青木と並ぶ他球団に打ち負けない打線になる。長期契約を結んでくれた球団に恩返しできる活躍を見せてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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