盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
ソフトバンクの周東が覚醒したな。このところは、塁に出たら走るという感じになってきた。10月20日の日本ハム戦で、盗塁数が40に到達した。9月に月間14盗塁と猛烈なペースで、パ・リーグの盗塁ランキングのトップに立つと、10月も14盗塁目で40の大台に乗せた。日本ハムの西川も負けじとついていってるけど、この時点で6差。周東に初の盗塁王の座が見えてきた。
今年の僕はテレビやラジオの解説の日以外は、球場に行くのを我慢して、テレビ観戦が続いている。2画面で2試合をチェックしていて、周東のプレーは特に楽しみにしている。見ていて「なんでここで走らへんねん」というストレスを感じない。ファンも同じ感覚やと思う。走るのを待っているし、アウトになっても怒ることはない。その期待に応えるのもプロ。タイトルに関しても「強く意識している」とはっきり口に出して、ギラギラしたものを隠さないし、応援したくなる選手やね。多少、スタートが遅れてもセーフになるスピードがあるし、スライディングも数をこなしているうちにどんどんうまくなっている。
一方のセ・リーグの盗塁王は阪神・近本がライバル不在で、30にいくかいかないかで決まりそう。ちょっと寂しい数字で、せめて40に到達しないと、盗塁の下に「王」とはつけたくない。周東はこのペースを緩めずに50を目指してほしい。疲れがどうのこうのなんて関係ない。一塁から二塁まで走るのに3秒もかからない。精神的な疲労はあるかもしれんけど、一晩寝たら元気になる。
僕も多い時は、月間20を超えるペースで走っていた。ライバルの数を見て、常に10差以上はつけようと思っていた。盗塁は多くても1試合に4〜5個が限界。さすがに10あけていたら、何かアクシデントがあっても簡単に追いつかれることはない。
周東が爆発的に盗塁を増やした理由は、常に試合に出られるようになったから。いつも言うように「盗塁を増やすコツ」は数多く塁に出ること。8月までは打撃が不安定でスタメンに固定されなかったけど、9月以降は3割以上の打率をマーク。1番打者として定着し始めた。しっかり腰を回して振っているから、右中間を破る二塁打や三塁打も増えている。
当然、これだけ走りまくれる1番打者がいれば、チームは強いはず。ソフトバンクは優勝争いの勝負どころの10連勝で、10月21日に優勝マジック8を点灯させた。3年連続日本一のチームやけど、リーグ優勝自体はここ2年、西武に譲っていたから、選手らも期するところがあったと思う。2位で健闘していたロッテはコロナ禍で大量に選手が離脱した不運もあって、最終的に地力の差を見せつけられる格好となった。
ロッテも最後はガス欠となったとはいえ、楽しみな1番打者候補が出てきた。大阪桐蔭出身の2年目の藤原が10月7日から1番で固定されて、はつらつとした姿を見せている。粗削りな面は否めないけど、先頭打者アーチを2本放ったパンチ力は、なかなかのもんや。他球団にデータが研究されてどうなるかやけど、今は失敗を恐れずにどんどん振っていけばいい。この経験を糧に、オフにどれだけ成長できるか。足も速いし、来年は周東ともっと熱い盗塁王争いが期待できると思うで。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。