世界の福本豊〈プロ野球“足攻爆談!”〉カープが来季に逆襲する理由とは!?

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 広島は2シーズン前に3連覇したとは思えないほどガタガタになってしまった。勝率5割を大きく下回り、Aクラス3位以内は厳しい状況。低迷の最大の原因は投手陣の弱体化。エースの大瀬良が故障で離脱し、左の柱のジョンソンがまったく勝てなかった。中継ぎ、抑えでも苦労して、勝ち試合を何度も落としてきた。でも、投手陣さえ立て直せば、来季からまた優勝争いに加われる。そう思うぐらいに、野手には若い息吹を感じている。

 解説の仕事で、10月6日からの広島×阪神の3連戦(マツダ)を現地で見てきた。新型コロナウイルスの感染拡大防止のための入場制限があり、上限は定員の50%の1万6500人やった。マツダスタジアムといえば、球場を真っ赤に染める満員のスタンドが名物。まだ相手チームを飲み込むような雰囲気は戻ってないけど、ファンの熱気はあった。中でも大きな拍手で迎えられていたのが、2軍から初昇格したドラフト2位の宇草孔基という法政大学出身のルーキー。3試合とも1番で抜擢され、佐々岡監督の期待の高さを感じた。

 驚いたのが、そのスピード。2軍のウエスタン・リーグでは打率2割8分1厘で、盗塁はトップ。プロフィールには50メートルのタイムが5秒8となっていた。これは、さすがにサバを読んでいると思ったけど、実際に見るとほんまに速い。

 ちなみに僕の50メートル走のタイムは6秒2ぐらいやった。それでも盗塁王になれたんやから、新人やドラフト候補の紹介で5秒台というのは下駄を履かせていることが多い。聞くところによると、50メートル走の日本記録は5秒57だという。野球選手のタイムは手動のストップウオッチで、誤差がかなり出る。しかも、スタートを切ってから押すから、何回も測れば、奇跡のようなタイムが出ることがある。だから、タイムはあくまでも目安。それに盗塁に必要なのは、いかに速くトップスピードに乗せるか。塁間たったの27.431メートルの勝負やから。

 話を戻すと、宇草は打撃さえ磨けば、カープの新しい切り込み隊長になれる。最初は結果を残しても、対戦相手にデータがそろったらダメになるようではアカン。研究されても、それを上回る技術を練習で身につけてほしい。勢いだけでは生き残れない。悪い例が、野間。2014年のドラフト1位で、それこそ宇草と同じぐらいの足の速さがある。僕はFAで巨人に移籍した丸の穴を埋めると思っていたけど、昨年はレギュラーとして期待されたのに打率2割4分8厘。今年はガタッと出場機会が減ってしまった。

 10月11日には昨年のドラフト1位の小園もようやく、今年初めて1軍に上がってきた。エリート育ちで1年目から使われていたけど、今年はずっと2軍暮らし。次から次に若い選手が昇格しているのに、声がかからず、相当に悔しかったろう。空回りする可能性もあるけど、気合いは入っていると思う。小園もプロフィールでは50メートル走のタイムが5秒8。宇草と小園の1、2番が定着するようになれば、おもしろい。二遊間の菊池涼、田中広も全盛期の力はない。小園がもっと激しいレギュラー争いをしないといかん。

 鈴木誠、西川、堂林、松山、坂倉、會澤と、打つほうは脂の乗りきった選手がそろっている。来年はカープの逆襲があると思うで。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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