「前進守備を抜いた見事なタイムリーでした」
巨人の原辰徳監督が大ハシャギで絶賛したのは、菅野智之投手のバッティングだった。8月25日に神宮球場で行われた巨人−ヤクルト戦。1点リードで迎えた7回表、2アウト満塁で打席に立ったのは先発のマウンドに立った菅野。試合後のインタビューでは「非常に悩むところではある」と語っていたように、代打を送ることも考えられた。
「菅野投手にとっては、開幕9連勝の記録がかかる大事な試合。その前に打席に立った吉川尚輝のところで1点でも取っておけば、大事を取って代打を送っていたかもしれませんが、あえなく三振。菅野の投球数も100に満たなかったこともあって、“続投”を決意したのでしょう」(スポーツ紙記者)
結果は2ストライクと追い込まれながらも、甘く入ったスライダーを左中間に弾き返し、打球は前進守備の外野の間を抜けて、試合を決定づける走者一掃のタイムリーツーベースとなった。先発投手の“一撃”に誰よりも歓喜したのは外ならぬ原監督だったという。
「今季の巨人は、チーム防御率3.38(8月25日終了時点)でセ・リーグトップの成績を残していますが、じつはこれまで、いいところで相手投手に打たれまくっていたんです。開幕戦では先発の菅野投手が、阪神の西勇輝投手にホームランを打たれていますし、7月24日、同じ神宮のヤクルト戦では、先発の今村信貴が、ドラ2ルーキーの吉田大喜に先制となるタイムリーを許して、そこから一気に5点を献上。今季はどのチームも“総力戦”で、投手といえども死に物狂いで打席に立つシーンが目立ちますね」(前出・スポーツ紙記者)
現在放送中の人気ドラマ「半沢直樹」の影響か、巨人の指揮官はしきりに「やられたらやり返す」と繰り返していたという。
「7対1と大敗した8月7日の中日戦で先発左腕・田口麗斗が2回に相手先発の大野雄大に先制タイムリーを打たれたシーンは印象的でした。ふだんはポーカーフェイスの田口が、明らかに『やべっ』という顔をしていましたから。そこから大崩れして5回を5失点。その少し前から投手の戸根千明が“二刀流”への挑戦を表明して話題になっていましたが、記者の間では『あまりに投手に打たれまくっているから、投手に打たせて“倍返し”を狙っているのでは…なんとも原さんらしい』ともっぱらの噂でした。しかし今回の菅野のタイムリーで、溜飲を下げたはず。戸根の“二刀流デビュー”はしばらくオアズケになるかもしれませんね」(球団関係者)
無観客での開幕、試合数削減、観客や延長イニングの制限など、異例のシーズンとなった今季、以前のような投手の“無気力打席”を見るケースは減ったかのように思える。「9人目の野手」のバッティングにも注目したい。
(渡辺俊哉)