消えた生活保護費150億円を追う(1)500万円の不正受給で実刑

 厚生労働省によると、17年度の生活保護費の不正受給件数は約4万件。「受給者約210万人のうちたった2%じゃないか」との声も聞かれるが、その額は約155億3000万円にも上る。税金の詐取は不正受給にとどまらず、全国各地で職員による横領事件が続発。消えた生活保護費の行方を追った。

「生活保護を受けていると毎月1回、収入申告をさせられる。俺みたいに稼働年齢(18〜64歳までの働ける世代)だと担当のケースワーカーから『今月は収入ありませんか? お金が入ったら必ず申告してくださいね』って言われるんだよ」

 こう話すのは、東京都荒川区在住の50代の受給者だ。おおまかに言えば、生活保護費とは国が定めた最低生活費を基準とし、そこまで収入が達しない人に不足分を支給するもの。無収入であれば満額支給されるが、収入を得るとその分が減額される。

 そこで、収入を隠して生活保護費を受け取れば不正受給になり、悪質性が高いケースになれば、詐欺罪で告訴されることもある。

 不正受給の約半数は、こうした「稼働収入の無申告」である。

 先の50代の受給者は、筆者に対してみずからの不正を打ち明けた。

「役所は預金口座を調べたり、課税状況を確認するだけ。ちゃんとした会社で働いていれば、いずれバレちゃうけど、日雇い労働なら大丈夫だね。俺はもう何年も山谷で日雇いやってるけどバレたことないよ。女なら風俗やるのが鉄板だね」

 往時に比べれば激減しているものの、山谷に行けばいまだに日雇い仕事にありつけるようだ。

「手配師の知り合いがいれば、誰でも仕事できるよ。日当は1万から1万1000円が相場かな。いつも一緒に現場に出るメンバーはほとんどが高齢者で、70歳代もいる。みんな生活保護だよ。ケースワーカーは『65歳を過ぎると働けない』という固定観念があるみたいで、高齢になるほどチェックは甘いみたいだね」(50代の受給者)

 厚生労働省の最新調査によると、被保護者のうち約半数は高齢者世帯であり、約3割は何らかの障害を抱えた世帯となっている。

「約8割は働けない人たちであって、不正受給などできやしない」という意見もあるが、考えが甘すぎる。

 実際、高齢受給者の逮捕事例は数多くある。

 昨年11月、東京地裁立川支部において、5年間で約500万円を不正受給したとして逮捕された、62歳になる男の判決公判が行われた。

 被告人は清掃会社で働いていたが、給料明細を偽造して収入を過少申告していたのだ。腰縄と手錠をされ、刑務官に前後を挟まれながら入廷した男は、白髪交じりのボサボサ頭。肥満体を揺らしながら証言台に立つと、裁判官から判決を言い渡された。

「主文、被告人を懲役2年6月に処する」

 公判で反省の意を示していたが、執行猶予は付かなかった。

 暴力団員による不正受給も問題になっている。

 自治体の生活福祉課窓口には、「暴力団員の生活保護は認めません」というポスターが貼られ、申請を受け付ける際には、職員が「暴力団との関係の有無」を問い、確認書類には「私及び世帯員は暴力団員ではありません」というチェック項目が設けられている。

 それでも暴力団による不正受給がなくならないのはこうしたチェック機能が「ザル」ということなのだろうか。

 都内某区生活福祉課職員はこのように言う。

「正直なところ、申請段階で暴力団員であるかどうか見分けるのは難しいです。例えば小指が欠損してたり、胸元に刺青が見えたりすれば、その人が暴力団員でないか、警察署長宛に文書で照会をかけますけど、何も痕跡がなければ、通常はそこまでやりません」

 表向きは「排除」をうたっていても、現場レベルでの暴力団対策は万全とは言えないようだ。

 さらに、行政の努力をあざ笑うかのように、元暴力団員のA氏が語った。

「ヤクザも高齢化が顕著だ。若ければ女でも作ってハッパをかけることもできるけど、としを取れば生活保護でも受けなきゃ食い扶持がなくなるからね。それに、きちんとしたシノギがあっても、生活保護は欲しいもんだよ。だって毎月12万〜13万円が固定で入るんだぜ」

 生活保護費はヤクザの重要な資金源と認知されている面もあるようだ。

 また、生活福祉課職員は、実務上、暴力団を生活保護から排除しきれないことを示唆していた。

「申請を受理して、決定か却下かの判断を下すのに14日から30日という調査期間が定められていますが、実際にはそんなに時間をかけていられない。1週間程度で保護の決定をする場合がほとんどです。そうなると、警察に照会をかけても、すぐさま返事が来るとは限りませんし、つまり、よくわからない状況で保護の決定をするのです」

長田龍亮(ジャーナリスト)と週刊アサヒ芸能取材班

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