消えた生活保護費150億円を追う(3)「受給者の死を待っていた」

 そして小林元被告の桁違いの〝余罪〟が、区の調査や公判で明らかになる。不正は平成22年5月から平成30年3月にわたって行われていたというのだ。

 公判において検察は、不正受領の総額は9148万円と主張したが、実際に起訴されたのは約220万円。これは、面接カードの保存期間が1年間であり、事件が発覚した時点で、残されていたのは平成29年4月以降のものだけ。よって、不正受領した大部分は証拠がなく、立件を見送られたのだ。

 小林元被告が担当していた受給者の岡野氏(72)=仮名=は言う。

「小林はとにかく面倒なことが嫌いなヤツだった。家庭訪問には一度も来なかったよ」

 筆者が岡野氏と出会ったのは4年前。その時、こんな話を聞いていた。

「小林はいつまでたっても銀行振り込みにしてくれないんだよな」

 毎月、役所に赴いて列に並ぶのは、とりわけ高齢者には大きな負担になる。だが小林元被告は、

「まだ元気なんだから、役所に取りに来てください」

 と、取り合ってくれなかったという。

 小林元被告の逮捕を受けて、岡野氏を知る受給者は次のように言った。

「俺なんて、保護受けてから半年ぐらいで銀行振り込みに変更してくれたよ。もしかして、小林は岡野さんが死ぬのを待ってたんじゃねえのかなあ」

 小林元被告の弁護側は、不正に受領した約9200万円のうち、5206万6137円は、保護費が適正に支払われていなかった受給者に流用していたと主張した。仮にそうだとしても、差額の約4000万円はいったいどこに消えたのだろうか。

 小林元被告は公判で次のように証言した。

「給料と保護費を同じ口座に入金してしまったので、自分でも判別できなくなってしまいました。ですが、私の認識としては、遊興費は自分のお金から出していました。差額分については、自宅を売却するなり、なんとかお金を工面して、必ず返還します」

 対する検察官は間を置かずに問い詰めた。

「私的に使っていないなら、あなたの手元にお金が残っているはずでは?」

 結局、真相は本人の口からきちんと説明されずじまいだった。

 そして昨年12月11日に下された判決は、「懲役3年執行猶予5年」。

 実質的な被害の総額は約9200万円。執行猶予が与えられる事案ではないはずだ。なんとも言えない違和感を残し、裁判は幕を閉じたが、小林元被告には民事上の責任が残されている。

 北区生活福祉課は現在、小林元被告が不正受領した金額の精査を進めている。

「調査が完了ししだい、返還請求をします。返還がなされない場合は、民事訴訟を起こします」(生活福祉課長)

 すでに北区は、小林元被告が平成19年に購入した自宅と銀行口座の仮差し押さえ手続きに入っている。

長田龍亮(ジャーナリスト)と週刊アサヒ芸能取材班

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