天才テリー伊藤対談「都倉俊一」(4)今後の音楽産業は「ライブ」がカギ?

テリー 17年から「紅白歌合戦」で「蛍の光」の指揮も担当されていますね。

都倉 もうあれは、日本の文化イベントですから。参加することに意義があるというかね。

テリー その前日の「レコード大賞」でも、審査委員長を務められていますが。

都倉 「レコ大」の審査員を去年の60周年までやっていて思ったのですが、やはりレコード大賞を取った曲は、30年たってもみんなに歌ってほしいじゃないですか。残念ながらそういう歌が、レコード大賞になかなか選ばれないんですよね。

テリー 確かに、昔の受賞曲は、大人から子供まで、みんな歌えましたよね。

都倉 今のソングライターが昔に比べて劣っているとか、そういうことではないと思うんです。最近は音楽の聴き方も違うじゃないですか。だからみんなで同じ歌を共有できるスペースがもうないわけですよ。

テリー 若い人はスマホとイヤホンで聴きますしね。

都倉 かつて阿久さんは「音楽は空気に伝播した時、化学反応を起こす」と言っていました。街を歩いていて、ある曲が流れてきた時、それを聞いた人たちが共有できる感情があったんですよ。ところが、今は音楽をひとりイヤホンで楽しむからか、歌詞が私小説のような内容が増えているのも気になります。

テリー では、音楽そのもののあり方も変わってしまった、と思われますか。

都倉 いえ、「ボヘミアン・ラプソディ」みたいな映画が大ヒットしているのは、やはり大衆がみんな一緒に楽しめるものを求めているという、いい証拠なんだと思います。実際、これからはライブ・エンターテインメントの時代だと思っているんですよ。JASRACが徴収している音楽使用料を見ていると、カラオケ・配信は右肩下がりだというのに、ライブは右肩上がりですし。

テリー そうなんですか。

都倉 ライブ・エンターテインメントって、その場に行かないと楽しめない「地産地消」の芸術なんです。これから東京オリンピックがありますし、さらに外国人観光客が増えると、夜の8時以降に楽しめる大人のエンターテインメントが必要になります。だから、これを熟成させて日本で根づかせないとダメだと思います。

テリー 具体的には、どういうことをしなければいけないんですか。

都倉 まず、ライブができる小屋が必要ですよね。ほら、TBSが豊洲に「IHIステージアラウンド東京」という劇場を作ったじゃないですか。

テリー ああ、周囲360度にステージがあって、その中心にある巨大な円形の観客席が回転する大がかりなシステムが話題ですね。

都倉 あれは本当に画期的で、交通の便も悪いのに、半年先まで公演やイベントのチケットが売り切れているんです。

テリー まさに、その場でしか楽しめない娯楽ですからね。

都倉 そういう場をどんどん増やして、東京をブロードウェイ、ロンドンに並ぶエンターテインメント都市の一つにしたいんです。

テリー 大きな夢だなァ! それはぜひ実現してもらいたいですね。

都倉 もちろん、これは僕1人では無理な話で、いろいろなところの理解と協力を得ないとできません。もし今後、僕がテリーさんと何かやるなら、そういうことに取り組みたいね。

テリー ありがとうございます、その際にはぜひ声をかけてください。

テリーからひと言

 都倉さんって、まさに「ダンディの塊」だよね。今やダンディは絶滅危惧種だから、いつまでもこのスタイルを貫いてほしいな。

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