日立製作所が「出社率5割」へ、「ジョブ型」雇用で日本企業はどう変わる?

 コロナ禍の功績の1つは、生産性が低いと言われる日本企業に新しい「働き方」を半ば強制的に導入させたことにある。Zoomによるテレワーク、リモートワーク、当番制出社など、必ずしも出社しなくても良い働き方を、企業はこの間に模索することになった。果たして「出社」は必要なのか。ポスト・コロナを見据えていくつかの企業がこれを機に新しい働き方に切り替えつつある。

 日立製作所は在宅勤務を働き方の中心に据えると発表、7月までに出社率を3割程度に抑えるとした。そしてこれをある程度恒常化し、2021年4月以降は国内従業員の出社率を5割にとどめ、7月には約2万3000人いる従業員に対し、「ジョブ型」の人事制度を導入するという。

 ジョブ型とは一言で言えば、仕事本位の雇用制度だ。終身雇用が当たり前とされてきた日本は「メンバーシップ型」の雇用が一般的。「就職」というより「就社」で、転勤や異動、部下と上司、籍を置く部や課があった上での働き方で、個ではなくチームの働きやチームへの貢献度などで人事考査が行われるシステムだ。同じ動きは富士通や資生堂もとっており、前者は1万5000人、後者は3800人を対象にジョブ型に移行するとしている。これらは際立った例だが、個別の企業では既に部分的に導入されているだろう。

「人事は通常、結果を伴った数字の『成果』と、組織内での動き方の『行動』を評価の2つの軸として成立しています。ですが、例えば営業なら成果が本来的には一番求められるものですし、人事や経理、総務といった管理部門は目立った成果はわかりづらく、行動が重視される。といったように仕事の内容によって評価はわかれるし、在宅での働き方が増えれば、行動の部分は目減りする。就社を前提とした働き方は曲がり角を迎えていてそのタイミングでコロナが直撃、これを機に人事制度の見直しが行われているというのがこの動きの大まかな流れです」(経済ジャーナリスト)

 事実、日立は管理職に関してはコロナ前もジョブ型を導入していたが、今回はそれを非管理職にも広げたかっこうだ。管理職は例えば、数年経って業績が上向いたか下向いたか、管轄する組織が残した成果がいかようであったかで評価は判明しやすい。それを一般社員にも細分化して成果を求める制度に変えるということだ。

「社畜という言葉があったように、個を捨てて会社に身を捧げるメンバーシップではダイバーシティの多様性は度外視されていたので、ジョブ型は例えば子育て、介護、育休などの多様な働き方と親和性が高く、現在求められているものではあります。政府が進める『働き方改革』にも叶ったもので、日本経団連も変革への旗を振っていました」(前出・経済ジャーナリスト)

 ただその場合、例えば扶養や住宅をはじめとした様々な手当や年齢給、残業代等、就社していたからこそ与えられていた恩恵がなくなるかもしれない。そもそも成果が上げられなかった場合はどうなるのか。副業を薦められたとして、本業で成果を上げられない人が副業で成果を上げるケースは稀だろう。またそもそも、きちんとジョブ型に見合った抜本的な人事制度が整っていないことには前提が異なってくるが、本格的な変化が行われるだろうか。1つの会社で成果が上げられなかった場合の、転職市場のセーフティーネットがないのも危惧される。

 日本ではバブル崩壊後、企業の体力が弱まったタイミングで成果主義がもてはやされた時代があったが、経済が持ち直すとやはり終身雇用の利点が見直された経緯がある。

 コロナが黒船となって日本の企業社会が変わるのかどうか。当面は様々な試行錯誤が行われるだろう。

(猫間滋)
 

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