賭け麻雀問題で辞職した黒川弘務前東京高検検事長の処分は、「懲戒」より軽い「訓告」に落ち着いた。それでも約5900万円と見られる多額の退職金が支払われると見られ、そもそもが常習賭博に当たる可能性もあることから、同席していた記者らを含めて市民団体が5月26日に刑事告発を行うなど、まだまだひと悶着ありそうだ。
さてその様々ある問題のひとつとして取り上げられているのが、同席していた産経新聞の2人と朝日新聞の1人の記者らは誰かという問題。共に明らかにされていないからだ。これに正面切って批判を加えたのが、マスコミの不祥事に手厳しい元大阪府知事の橋下徹氏だ。24日にフジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に生出演して、「産経新聞も朝日新聞も国民に実名報道を強要しながら、自分たちは実名報道しないんですか?」と問いかけ、本来ならメディアがチェックすべき権力との癒着関係を問題視する持論を展開した。
「確かに普段なら『実名』を原則とし、時には人権を侵しかねない報道も厭わないのがとりわけ大手メディアの専売特許だったはず。ところが今回の件では、朝日は記者が同席していたことを認めたものの、凡庸なコメントを出しただけ。産経に至っては同席していた事実すら公表せず、本来なら情報提供者に迷惑がかからないようにするためのものである『取材源の秘匿』の原則を持ち出してごまかしたのですから何ともあきれます」(フリージャーナリスト)
大手メディアの「実名報道問題」と聞いて思い出されるのが、昨年7月にあった京都アニメーションの放火事件だ。今年5月27日になってようやく犯人が逮捕された同事件では、亡くなった35人と他の被害者の身元公表に約1カ月ほどの時間がかかった。メディアスクラムで遺族らが2次被害に遭うことなどが懸念されたからだが、当の朝日新聞がこの時の実名報道について検証記事を掲載している。それによると、全国紙や京都のメディア12社のうち、日刊工業新聞を除いた11のメディアが実名を報道したという。
朝日新聞にいたっては、「事件報道に際して実名で報じることを原則としています。犠牲者の方々のプライバシーに配慮しながらも、お一人お一人の尊い命が奪われた重い現実を共有するためには、実名による報道が必要だと考えています」との声明を発表している。
今回は法務省が「(賭け金額が)高額でないから」という理由で罪に問わないとしたことで、あまり頻度が高くなく、高額でなければ賭博罪には問われないという「黒川基準」なる言葉まで生まれた。この基準に当てはめれば、刑事罰には当たらない「軽い現実」ということになって、確かに記者名を明かす必要もなくなる。だからこそ「取材源の秘匿」を流用したダンマリも通用するということか。
だが実は、権力との癒着が生まれる記者クラブ制度も良しとしない有志ジャーナリストらによって既に特定作業が行われ、一部では実名を明かす動きも見られた。
「賭け麻雀の存在自体は文春のスクープで、記事によれば産経関係者からもたらされた情報とありますが、それこそ本来の取材源の秘匿の観点からして、この記述に関しては必ずしも本当かどうかは疑ってみる必要があります。また、賭け麻雀が行われる日時と場所まで分かるのは参加者以外ではなかなか知り得ないのではないかと考えれば、この3人の誰かという可能性もないわけではない。もちろん真相は知る人ぞ知るですが、彼らが今後に就く社内ポストを後々まで観察すれば、1つの答えに行きつくかもしれませんね」(前出・フリージャーナリスト)
イデオロギー的に左右両極に分かれるこの2社。特に産経は朝日叩きで時に血道を上げるが、今回は両社痛み分けで、呉越同舟して嵐が過ぎ去るのを待ちそうだ。
(猫間滋)