4月13日にアメリカのネット通販大手「アマゾン」が物流・配送業務で7万5000人のフルタイムおよびパートタイムの従業員を追加で雇用すると発表。翌14日には、同社の株価は年初来上昇率で20%以上に跳ね上がり、前日比5.3%高の2283.32ドルの過去最高値をつけた。
「アマゾンは1カ月前の3月16日に10万人を追加雇用すると発表したばかり。この日の『S&P500種』は年初来暴落率で12%以上のマイナスですから、新型コロナウイルスで小売りが営業停止を強いられる中、ネット通販に需要が集中して、いかにアマゾンに追い風が吹いている状況か、勢いがそのまま株価に反映された形です」(アナリスト)
大規模な雇用方針を打ち出し、失業者の受け皿になっている社会的貢献度に好感が持たれた影響もあるのだろう。コロナ禍の間は賃金を3億5000万ドル(約380億円)アップするとしていたが、今回はさらに5億ドル(540億円)にまで引き上げた。大盤振る舞いなのだ。アマゾンCEOのジェフ・ベゾスは4月頭には食料団体に100億円超の寄付を行って周到に1人勝ちへの批判をかわしていた。今回の株価急騰では、同時にベゾスの資産も15兆円にまで膨らんだことになるのだが……。いずれにしてもイケイケドンドンの雰囲気が伺える。
一方、必ずしも足下は安定していない。
3月30日には物流・配送の水際、ニューヨークの物流センターで感染者が出たことで労働条件の改善を求めるストライキが行われたのだが、このストを組織した従業員が同日付けで解雇されたことが批判を浴びている。
「解雇の理由は、感染者と濃厚接触があったために自宅待機を命じていたところ、ストを組織して『複数の安全に関する問題』をもたらしたからとされています。州当局はこれを問題視して調査に乗り出しています」(前出・アナリスト)
翌々日の4月1日にはデトロイトの施設でも抗議デモが行われている。
これを受け、アマゾンでは従業員の検温や消毒・洗浄の公衆衛生対策を強化しているが、アマゾンの好調さは、需要が増えれば増えるほど危険な環境下で本来は忌避されるべき施設内労働も増え、感染リスクも高まるというダブルバインド状況がもたらすものでもある。となればどうしてもジレンマは発生せざるを得ない。極論かもしれないが、感染を恐れない従業員の労働力に支えられているとも言える。
国内では「アマゾンジャパン」の小田原の物流拠点で3月24日に続いて4月1日に感染者が出ており、その拡大が懸念されている。そうした複雑な事情もあって、アマゾンでは、毎年7月に行われる会員向けのセールイベント「プライムデー」も延期の方向で検討されている。
「昨年の世界中での販売総額が7800億円でしたから、これは同社ならず多くの出品者にとってかなり痛い。そもそも現在のアマゾンの拡大は、生活必需品以外の『不要不急』な品物の販売実績の上に成り立っていますから、泣きを見ている中小の小売り出品事業者は多いのではないでしょうか。それでもアマゾンは、通販以外にもクラウド事業の需要が伸びているので、うれしい悲鳴を上げているくらいです」(前出・アナリスト)
やはり社会インフラのプラットフォーマーたるアマゾンの強さが際立つのだ。
(猫間滋)