新型コロナウイルスの影響で、東京五輪に延期の可能性が浮上した。橋本聖子五輪相が3月3日の参院予算委員会で、東京都とIOCの開催都市契約について「20年中であれば延期できると取れる」と語ったのだ。
この発言は欧米のメディアに広く取り上げられ、あらためて東京五輪の開催可否に焦点があてられている。そんな東京五輪の延期に現実味はあるのか。スポーツライターが指摘する。
「契約面はともかく、実務面で見れば延期はまず不可能でしょう。主催者である東京都の事情はともかく、参加する選手や競技団体、そしてテレビ局といったステークホルダー(利害関係者)のすべてが延期を敬遠し、むしろ無観客試合のほうがマシだと考えるはずです」
これらの関係者が延期を望まない理由は何なのだろうか?
「トップ級のアスリートたちは年単位で計画されたトレーニングを重ねることにより、五輪の時期にピークを持ってくるよう調整しています。それゆえ延期になるとベストパフォーマンスを発揮できなくなる懸念が高まるのです。同様に各競技団体ではやはり年間計画で様々な大会のスケジュールを組んでおり、五輪の開催時期がズレると既存の大会に被るといった影響が出るのは確実。たとえ無観客試合でもスケジュール通りに東京五輪を開催してくれたほうが、影響を最小限に留められます。さらにバスケットボールやサッカーなどプロ選手が参加する競技では、五輪の日程が変わるとプロ選手の参加が厳しくなるため代表選考をやり直す必要も。そもそもプロ選手のいないバスケなど観客側も求めていないのは明らかでしょう」(前出・スポーツライター)
それに加えて、オリンピックを支えるテレビ局もまた、開催延期に反対することは間違いないという。スポーツライターが続ける。
「東京五輪の日程が後ろにズレると、各局のキラーコンテンツである人気プロスポーツと被ってしまうので、そんな事態は是が非にでも避けなければなりません。全米ナンバーワン人気のアメフト『NFL』は9月10日に開幕し、翌年2月7日のスーパーボウルまで開催。また欧州サッカーは五輪直後に開幕し、こちらは来年3月までリーグ戦が行われます。それゆえ巨額の放映権料を負担するテレビ局としては、五輪が延期されるのは死活問題にさえなりかねません」
感染者が2500人を超えたイタリアでは、サッカーのセリエAで無観客試合を実施。6月12日にローマで予定される「ユーロ2020」(欧州選手権)の開幕戦でも無観客試合が噂されている。もはや東京五輪も「テレビで観るもの」と決め込むのが吉なのかもしれない。
(北野大知)