世界中から潜入…ニッポンは「スパイ天国」だ(1)月に2万〜3万の定額見返り

 社会インフラの根幹を揺るがしかねない大事件が勃発した。通信大手のソフトバンクの元部長がロシアに社内情報を流出させていたのだ。そこには、旧ソ連国家保安委員会(KGB)から脈々と受け継がれる常套手段が隠されていた。ニッポンにはびこるスパイ活動の全貌を公開しよう。

「協力者へのファーストコンタクトは、幕張メッセや国際展示場の企業向けイベントや外交官主催のパーティーだな。輸入会社や商社のバイヤーを名乗って近づくのが常套手段だ。日本のビジネスマンは、多少怪しいと思っても、日常業務の名刺交換くらいは応じてくれるから」

 不敵な笑みを浮かべながらターゲットへの接触方法について話し始めたのは、共産圏地域の元諜報員を知るアウトロー関係者のX氏である。続けてもらおう。

「もちろん、イベントで接触せずに、後日、偶然を装ってアプローチすることもある。大通りで道を尋ねたりして(笑)。それで食事や酒の席に誘って距離をグッと縮めるんだ。友人や家族ぐるみのつきあいになれば、ごく自然に誕生日や記念日のプレゼントを贈り合う。いつしか、プレゼントのやり取りが金銭と機密情報に変わっていくんだ」

 くしくも、またもや日本の技術者がスパイ活動の片棒を担ぐことになってしまった。1月25日、ソフトバンク元社員が社内の機密情報を在日ロシア通商代表部の幹部職員に漏洩した疑いが発覚。警視庁関係者が、逮捕に至るまでの経緯を解説する。

「警視庁公安部にはスパイの一覧リストがあります。中身は、ロシアや中国の関係者がメイン。そして、リストに載る人物と頻繁に接触している日本人が官庁職員や大企業の社員であれば徹底マークします。今回は、社会経済インフラとして注目されている5G回線やAIの先端技術を持つソフトバンクの社員が、ロシアの外務官と複数回接触していた。情報漏洩の証拠を集めて、満を持しての逮捕だったのでしょう」

 ソフトバンクの発表によると、顧客情報や通信の秘密に関わるような機密性の高い情報は一切含まれていないというが‥‥。

「今回のケースは途中でしくじったパターンだ。ターゲットとの関係性が出来上がったら、『あの情報をチョウダイ』と何気ない軽いノリで情報提供を求める。最初のうちは、ネットで誰でも調べられるような情報を要求するから、相手も油断して教えちまう。それを何度か繰り返す中で徐々に機密性を上げていくのがやり口だ」(X氏)

 気心の知れた友人の頼みであり、標的にされた日本人も最初は大ゴトだとは思っていないのだろう。

「情報の見返りとして金も渡す。それも、一つの情報ごとにいくらという設定ではなく、月ごとに定額2万〜3万円。そして、あるタイミングで、会社の情報を流して金銭を受け取っていたことをネタに『会社にバラされたくなければ、もっと精度の高い情報を提供しろ』と脅しにかかるんだ。ここで友人から協力者という関係性に変わっていく。だけど、この頃には機密情報を渡すことにも抵抗がなくなってるよ。情報を渡し続けたことで麻痺しているんだろう」(X氏)

 親しい友人であっても油断は大敵。友情の間に金が絡んできたら要注意だ。ちなみに今回のソフトバンク事件で、ロシアの外交官2人は外交特権で逮捕されていない。

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