カルロス・ゴーン「爆弾手記」と「現地包囲網」(2)レバノンのネットワークが暗躍

 保釈中の被告による前代未聞の大脱走は、昨年12月29日に決行された。東京都内の自宅から帽子にマスク姿でゴーン被告は外出すると、新幹線で大阪へ。その後、大型の音響機器のケースに隠れ、レバノンに向かうプライベートジェットの機中の人となったという。

「ウォールストリート・ジャーナル」によれば、異なる国籍の10〜15人で支援チームを作り、日本を20回以上訪問。国内10カ所以上の空港を訪問するうちに、X線検査で機械が大きな荷物に対応していない関西空港の抜け穴を発見したという。

「脱出計画は3カ月にわたって練られ、その費用は2000万ドル(約22億円)以上かかったと伝えられています」(捜査関係者)

 ゴーン被告は今回の逃亡劇について、「単独行動」と説明しているが、その鍵を握るのは、16年に結婚したレバノン生まれのキャロル夫人とみられている。

「昨年11月に夫が逮捕されてから、冤罪を主張するゴーンを信じて、奪還するために日本政府はもとより、海外メディアやフランス政府にも働きかけていました。最終的にはフランス大統領まで動かそうとしたが、日産と提携する『ルノー』の統治を巡るフランス政府の思惑もあって、協力を求めるのは難しいと判断。そこでキャロル夫人は夫婦の故郷であるレバノン政府にターゲットを定めたのです」(社会部記者)

 昨年9月5日に東京地裁で、公判前整理手続きが行われ、初公判を「来年3月か4月に開く」と示されたことで、ゴーン夫妻は本格的に脱出計画に着手したとされている。「ブラジルで生まれ、フランスやレバノンで教育を受けたゴーンは、ルノーや日産が過少申告した金をトンネル会社(脱税などを目的とした実態の乏しい会社)を通じて運用。複数の企業やワイン会社を経由するなど、マネーロンダリングをしてレバノンに還流させていたと言われています。さらにゴーンはキリスト教マロン派の信者。レバノン政府が各宗派の代表を要職に割り当てられている中でも、大統領の輩出や富裕層が多いのが特徴で、VIP扱いされていました」(外信部記者)

 実際、レバノン入国後に大統領と面会したとされるなど、政府関係者が逃亡に関与した疑いも浮上している。国際ジャーナリストの山田敏弘氏もこう話す。

「逃亡劇には多くのキリスト教マロン派が関わっています。プライベートジェット機でゴーンと同行したとされる元米陸軍特殊部隊のテイラーは、過去にレバノンのマロン派組織に訓練を施したこともある人物で、もう1人の同行者のザイエクはレバノン人で、マロン派の信者。レバノンはモザイク国家と言われ、いろんな宗教が入っていますが、その中でもマロン派の絆はかなり深い。お金や友人関係よりも共通の価値観の部分でつながっているので、ゴーンのケースのように、手助けすれば法律に反するとわかっていても力を貸すのです」

 レバノンのゴーン被告の自宅に出入りするキャロル夫人の車両も情報機関の所有であることから、きわめて近い関係にあることは明白と言えるだろう。

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