年末の間隙を突いたカルロス・ゴーン被告の日本脱出劇は、さながらハリウッド映画を彷彿させた。それもそのはず、ゴーン被告は逮捕から出国決意までの一部始終を詳細に記録。爆弾手記として発表する意向だという。だがその一方で、安全なはずの「母国」レバノンでは厳重警戒下、身の危険が迫っているというのだ。
「ゴーン氏の頭の中は、日本政府と日産に対する憎悪が渦巻いている。今後もみずからの正当性を主張して、日本の司法の人権意識の低さを指摘するに違いありません」
と言うのは、取材に当たっている社会部記者だ。
1月8日、逃亡先のレバノンで日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告(65)=会社法違反(特別背任罪)などで起訴=が沈黙を破り、公の場で口を開いたが、その内容は自己弁護に終始した。
「日本の裁判システムの異常さを示したい。そもそも私は逮捕されるべきではなかった。日本の検察や日産の経営層と組んだ無慈悲なメディアの標的になった」
逮捕に関わった古巣の日産への恨みつらみをぶちまけるゴーン被告だが、これで終わりではなかった。逃亡計画を練る一方で、水面下で「爆弾手記」の準備を進めていたというのだ。
「これまで身の潔白を証明できず、ゴーンはいらだっていた。とりわけ日産の事件とは無関係と主張している妻のキャロルさんに対する捜査には神経をとがらせており、日本の司法制度を告発する手段を考えていました。そこで、手記を発表することで国際社会を味方にしようと考えたのです。しかも逮捕時に、接見した弁護士から『検察とのやり取りを含め拘置所内の様子を細かくメモしておくように』と指示された経緯もあり、拘置所での検察官とのやり取りだけではなく、その時に感じた憤りや妻への気持ちをノートにつづり、弁護士に報告。保釈後も裁判所に提出するための『日報』もかなり詳細に記載するなど相当量の文章を書き留めている。これをベースにした内容を公開する予定があるといいます」(司法担当記者)
いわば、記者会見での「告発」に飽き足らず、今後は小説や映像化などのメディアミックスでも日本司法や日産に対する「情報戦」を仕掛けてくるというのだ。司法担当記者が続ける。
「日々の活動をつづっていく中で、ゴーンがかなり気にしていたのは、外出時についてくる『尾行』の存在でした。実際には日産側が派遣していた警備会社の人間だったのですが、ゴーンは『日本の司法が常に監視している!』と弁護団にその正体を告発するように依頼していたとか。こうした『身の回りに起きた脅威』なども合わせ、手記の発表をレバノン人の知人に託していたのです」
さらに、逃亡に先立つこと3週間ほど前の昨年12月上旬、ハリウッド映画の有名プロデューサーであるジョン・レッシャー氏(53)と都内の制限住居で面会したと報じられるなど、映像化についてもかなり具体的に話が煮詰まっていたようなのだ。
「ゴーンが考える映画のイメージは、95年に公開された『告発』(ワーナー・ブラザーズ)です。アルカトラズ連邦刑務所で受けた虐待を告発し、閉鎖まで追い込んだ実話で、理不尽で不遇な時を過ごす自分と照らし合わせているのでしょうか」(司法担当記者)
主人公のゴーン被告が世界に向けて日本の司法制度を糾弾。そのエンディングは、晴れて無罪放免となったあと、無事レバノンに帰国する内容まで筋書きが決まっているという。しかし、それだけでは映画としてもの足りないと思っているようだ。司法担当記者によれば、
「昨年4月にフランスに出国して以来、8カ月会えずにいたキャロル夫人(53)への思いが強く、夫婦の愛を描いたロマンチックな要素も盛り込まれてくるかもしれません」