積水ハウス「地面師詐欺」調査報告書でわかったサスペンス小説のような展開

 地面師。ウィキペディアによれば、「土地の所有者になりすまして売却をもちかけ、多額の代金をだまし取る不動産をめぐる詐欺を行う者。もしくはそのような手法で行われる詐欺行為」とある。戦後の混乱期と不動産価格が高騰したバブル期に多発したともあって、今となってはホコリを被った言葉、もしくは専門用語。ところがここ3~4年ばかり、この言葉が世間で何度か用いられるようになった。こうした詐欺行為が多発したからだ。

 そして一連の地面師事件のハイライトを飾ったのが、2017年6月に発生した積水ハウス60億円地面師詐欺事件だった。
 
 事件発覚から1年半後の今、事件を調査した積水ハウス内部での「調査報告書」がネットに公開されて話題になっている。

「正確には諸費用相殺分を引いた55億5000万円の詐欺事件ですが、これだけ巨額の被害が生じたわけですから当然株主が黙っているはずがありません。積水は株主代表訴訟を起こされ、その中で調査報告書の開示が求められていました。積水はこれを固辞していましたが、大阪高裁まで争った末に積水が負けて、訴訟代理人によってネットに公開されたんです」(経済ジャーナリスト)

 そこでさっそく中身を読んでみたのだが、これがヘタなサスペンス小説より断然迫力があるのだ。

 事件の概要を簡単に記せば、東京・五反田の駅からわずか数分のところに、持ち主が絶対手放さないことで不動産業界で有名だった古い旅館があって、この物件の売却話が積水にもたらされる。ところが詐欺グループが用意したのは、偽造パスポートで本人を装ったニセの女性で、最終的には法務局での所有者移転登記が突き返されてしまい、そこで全てがウソと判明したが、その時はもう後の祭りだったといういきさつ。

 調査報告書によれば、〈入札ならば80億円から100億円と噂された物件〉だっただけに、相場より断然安い値段で取得できるとあって、いかに積水が冷静な判断ができないまま突っ走ったかが窺える。初期の手続きが完了した頃、〈複数のリスク情報〉として、〈「老婆心ながら……」〉と、積水がニセの所有者によって騙されて売買契約を進めようとしていることを知らせる内容証明郵便が複数届くが、これを〈怪文書の類〉として黙殺。〈数人のブローカー的人物〉が現れ、様々な情報をもたらすものの、これも黙殺。とはいえ、さすがに「大丈夫か」との懸念を抱きつつも、〈知人による本人確認と建物内覧〉は、〈代理人〉を自称する弁護士が現れたことで棚上げにされたままにしてしまう。

 この後、様々なトラブルがあってリスクと疑念が生じるのだが、同じようにスルーされる。

「ニセ者に干支を聞いたら間違えたとの報告や仲介者への振込先がペーパーカンパニーだったことなども問題視されています。執拗な本人確認はせっかく売ってくれるといった相手の機嫌を損ねる恐れがあるなどとしてあまり重きは置かれておらず、仲介者が元政治家に近く、政治家の関係者も取引に絡んでいることが信用の担保にもなったようですが、本人確認においては簡単な周辺地域での聞き込みも行われていませんし、元政治家なんて今では思い出せない人も多いレベルの人物にしかすぎません」(同前)

 目の前にブラ下がったニンジン欲しさに突っ走り、社長にも「取得可能」との報告済み案件だっただけに、走り始めてしまったら引き返せなくなってしまったのだろう。騙されているのかと疑いつつ、疑わしいほど信じたいと願うのが詐欺に騙される人の心理。それは東証1部上場の売上高2兆円の大会社でも変わらないようだ。

(猫間滋) 

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