筆者は、現在カンボジアでリクルーターの元締めをしている中国系ベトナム人のG氏に接触。
「人間買取業」について話を聞くことができた。「私たちは海外から人間を買う仕事を詐欺組織から請け負っている。たとえば日本人1人300万円という予算をもらうと、日本にいる協力者と交渉。250万円とか200万円とか、なるべく安く売ってもらう。要は値切る。残ったカネが俺たちの取り分になる。中には人を送ってもらったのに丸儲けしようとバックレてしまう質の悪いリクルーターもいる」
24年に警察が認知した日本国内における特殊詐欺の被害額は過去最悪の約722億円。詐欺グループにとって、日本人は「金の卵を産むガチョウ」なのか。
「どの組織も日本人を一番欲しがっている。真面目だし、真剣に結果を出そうと取り組むからね。日本で掛け子グループのリーダーだった人間などは、こちらでも重宝される。各国から集まってきた人間たちに詐欺の手ほどきをするティーチャー役を務めてもらい、“教え子”が成果を出したら、売り上げの1割程度をボーナスとして支給している組織もある。そうした優秀な人間の待遇は手厚く、住居には高級マンションの一室を与える。また、詐欺拠点のエリア内には相手をする女もいて、ヤリ放題さ」(G氏)
こうした好待遇を知ってか知らずか、甘い言葉で海外に連れ出されて詐欺集団に身を落とす日本人が後を絶たない。
詐欺事件の裁判の傍聴を続ける社会部記者が言う。
「SNSで『海外のリゾートバイト』を謳って若者を海外へと連れ出し、現地でパスポートを没収する手口はコロナ禍前から横行していました。暴力による支配というイメージが強いかもしれませんが、フィリピンでリクルーターとして活動して逮捕された男は、公判で100万円の月収を受け取っていたことを明かし、休日は外出も自由だったそう。さらにフィリピンで恋人もでき、その恋人は逮捕後、わざわざ日本の拘置所まで面会に来てくれたとか」
この現状に、元警視庁刑事で犯罪心理学者の北芝健氏が警鐘を鳴らす。
「格安のLCCが東南アジアの各国に直行便を飛ばしていることもあって、日本人を標的にした人身売買ビジネスはますます横行するでしょう。190以上の国と地域にビザなしで渡航できる日本のパスポートは“最強”とも言われますし、これを目当てに接触してくる犯罪組織も出てくるはず。日本人のパスポートは高額で売れるんです。成人年齢が引き下げられたことで、18歳の高校生でも簡単にパスポートが取得できる時代ですから、今後は水際対策の強化が求められています」
日本人が中国マフィアの手先となって日本人を騙すとは‥‥。恐ろしい時代になったものだ。
フリーライター 根本直樹
*写真はイメージ
週刊アサヒ芸能5月29日号掲載