7月1日午前3時、富士山の吉田ルートのゲートが開くと同時に多くの登山者が5合目に押し寄せ、山頂を目指す長い列が続いた。山梨県は今年から安全対策を強化し、軽装と判断した登山者の入山を富士山レンジャーが拒否できる権限を付与。Tシャツ・短パンやスニーカーで訪れた登山客には、装備の購入やレンタルを徹底的に勧める対応をとっている。
いよいよ本格化する夏山シーズンに先立ち、直近5年間の全国の山岳遭難発生件数を振り返ると、2020年は2294件、2021年は2635件、2022年は3015件と右肩上がり。2023年は3126件で過去最多を記録した。2024年は2946件と高止まりのまま推移しており、今年も事故の増加が懸念されている。
遭難原因のトップは「道迷い」で、全体の30.4%を占める。特に初心者がやりがちなのが、沢筋や谷へ下ってしまう行為だ。沢筋はV字形の急斜面を形成し、滑落や転倒のリスクが極めて高い上、雨天時は増水で低体温症を招きやすい。視界の利く稜線を捨て、谷を下ると救助隊にも位置を特定されにくく、命取りとなる。
2023年12月1日には、大菩薩・道志山系の滝子山で下山中に道に迷った40代男性2人が、誤って沢筋へ下って動けなくなり、県警ヘリ「はやて」によって救助されている。この事例は「道迷い」で沢筋を下ることがいかに危険かを端的に示している。
では、道に迷ったらどうすべきか。正解は「山を下らず、登り返す」こと。尾根やピーク、明瞭な踏み跡のある登山道に戻れば視界が開け、地図やコンパス、スマートフォンのGPS機能で現在地を把握しやすい。そこで動きを止め、スマホや無線機で救助要請を行うのが最も安全な方法だ。疲労している時に再度登り返すのは、勇気がいる行為ではあるが、頂上を目指すルートはいずれひとつに収束する。正規の登山ルートに戻れる可能性は高い。
また、登山前には必ず登山届を提出し、家族や友人に計画ルートと下山予定時刻を伝えておくこと。携帯の位置情報はスクリーンショットで保存し、電波の届かない場所でも現在地を示せる準備を怠らないようにしたい。
夏休みシーズンを迎え、猛暑や突発的な雷雨、濃霧など自然のリスクは増す一方だ。軽装入山の厳格な取り締まりと並んで、登山者自身も装備点検や計画策定、遭難時の正しい行動を徹底し、安全第一で富士山をはじめとする山岳を楽しんでほしい。楽しい山行が「無事に帰る」喜びで締めくくられることを願ってやまない。
(ケン高田)