台湾有事・朝鮮有事で日本が直面する最大のリスク

 近年、国際社会は不安定さを増し、世界各地で軍事的緊張が高まっている。ウクライナでの紛争は欧州を揺さぶり、中東では不安定化が続き、南アジアでも対立が先鋭化している。これらの現象は、米国の相対的なパワーの低下と、世界の多極化がもたらした必然的な結果である。

 かつての単極的な世界秩序は崩れ、新たな勢力図が形成される中で、地域レベルの対立が拡大し、戦争へと発展するリスクが顕在化している。この傾向は日本にとって看過できない脅威であり、特に台湾有事や朝鮮有事の可能性は、もはや遠いフィクションではなく、現実的な危機として迫っている。

 まず、米国の相対的なパワーの低下がもたらす影響は深刻である。冷戦終結後、米国は唯一の超大国として国際秩序の維持を担ってきた。しかし、中国やロシアの台頭、さらには地域大国の自己主張の強まりにより、米国の影響力は確実に後退している。

 この多極化の進行は、地域紛争の拡大を加速させる。たとえば、中国は南シナ海での領有権を強く主張し、周辺国との緊張を高めている。ロシアはウクライナへの侵攻を通じて旧ソ連圏への影響力の回復を試みている。これらの動きは、地域レベルでのパワーバランスの崩壊を招き、偶発的な衝突が大規模な戦争に発展するリスクを孕んでいる。

 このような状況では、国際社会の調停メカニズムも効果を失いつつあり、紛争のエスカレーションを防ぐ手立てが不足している。

 日本にとって、こうした動向は極めて憂慮すべき事態である。東アジアには、台湾海峡や朝鮮半島という世界でも有数の「火薬庫」が存在している。台湾有事は、中国の軍事力増強と米国の対中牽制が交錯する中で、現実の脅威となりつつある。中国は台湾を「核心的利益」と位置づけ、武力による統一の可能性を否定していない。一方、米国は台湾関係法に基づき、台湾防衛への関与を維持している。この対立構造は、偶発的な軍事衝突が一気に地域戦争へと発展するリスクを高めている。仮に台湾有事が発生すれば、日本は地理的な近接性からして直接的な影響を避けられず、米軍基地の存在も相まって、紛争に巻き込まれる可能性が高い。

 動揺に、朝鮮有事も無視できない脅威である。北朝鮮の核開発やミサイル発射は地域の緊張を一層高めており、金正恩体制の予測不能性は偶発的な軍事衝突のリスクを増大させる。韓国や米国との対立が激化すれば、日本はミサイル攻撃や難民流入といった直接的な危機に直面することになる。さらに、中国やロシアが北朝鮮を支援する形で関与すれば、事態は一気に制御不能となるだろう。こうしたシナリオは決して机上の空論ではない。

 このような国際環境において、日本は自らの安全保障戦略を根本的に見直す必要がある。従来の米国依存型の防衛戦略は、多極化が進む世界では限界を迎えている。地域紛争の拡大は、日本周辺でも現実の問題となりつつある。

 台湾有事や朝鮮有事が発生すれば、日本は未曾有の危機に直面し、経済的混乱やサプライチェーンの寸断、さらには直接的な軍事攻撃のリスクも否定できない。日本は、自衛力の強化と国際的な連携を通じて、新たな現実に即応する準備を急がなければならない。そうでなければ、迫り来る危機に飲み込まれるだろう。

(北島豊)

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