“予言者”サマーズ元財務長官も警告「トランプ関税」が招く世界経済危機

 4年前にバイデン政権の過剰な景気刺激策がインフレ加速を招く恐れがあると予告、的中させたサマーズ元米財務長官が、今度はトランプ政権の高関税政策に対し警告。「インフレが再び急激に高まる危険性がある」「トランプ氏の言動が欧州・中国への資本流出を招きドル危機になる。恐ろしい」と語り、全世界に波紋を広げている。

 金融アナリストが解説する。

「サマーズ氏は1月のアメリカの雇用統計を織り込んだうえで、関税と連邦職員の解雇など政府支出削減に重きを置くトランプ氏の政策が市場混乱を招き、米経済が景気悪化に陥る確率は5割近いという見通しを示したのです」

“予言者”サマーズ氏の言葉を裏付けるかのように、3月10日のニューヨーク株式市場はダウ平均株価が前週末比2%安と今年最大の下げ幅を記録、ハイテク株が多いナスダック指数は4%安と暴落した。兜町関係者が言う。

「これらの株安はサマーズ発言もさることながら、強気一辺倒で知られるトランプ大統領が3月9日放送の米FOXニュースのインタビューで、バイデン時代の好調な経済が年内に後退するかを問われ『そんなことは予測したくない。誰にもわからない』と発言。さらに『我々は非常に大きなことをやっているのだから過渡期はある。我々はアメリカに富を取り戻そうとしている』と述べ、一時的に景気後退する可能性を否定しなかったためです」

 しかし、トランプ大統領は株価暴落もサマーズ発言もものともせず、12日には予告どおり国内に輸入される鉄鋼・アルミニウムに25%の関税を課した。

 これを受けEUは総額260億ユーロ(約4兆1000億ドル)相当の米国からの輸入品に関税を課すと表明、中国も対抗措置の動きだ。するとトランプ大統領は、さらなる報復関税を宣言したうえ「アメリカはEUとの貿易戦争に絶対勝つ」とヒートアップするのだ。
 
「このままいけば単なるドル弱体化やアメリカ国内のインフレにとどまらず、世界恐慌下で当時のフーバー大統領がとった高関税政策の二の舞いになるのでは?という懸念も出ています」(経済ジャーナリスト)

 1929年に就任したフーバー大統領は、株価暴落をきっかけに発生した大恐慌に対処するため、関税を大幅に引き上げて国内産業を保護しようとした。2万品目以上の輸入品を対象に関税を40〜50%引き上げると、各国間で関税引き上げ競争が起き、貿易戦争へと発展。世界は未曾有の不況に陥り、第二次世界大戦の引き金となった。

 トランプ氏は12日、ホワイトハウスで記者団に「日本からの自動車輸入規模はあまりに大きい」と改めて批判した。米政権は輸入車への25%関税も検討するなど日本もアメリカ高関税戦争に、いやおうなしに巻き込まれつつある。

(田村建光)

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