将棋界の2025年の最大の焦点といえば、昨年6月、叡王戦で伊藤匠七段に敗れて8冠から7冠に陥落した藤井聡太7冠の8冠返り咲きがなるか。その叡王戦1回戦が、東京・千駄ヶ谷に移転した新将棋会館で始まった。新しい将棋会館は、日本将棋連盟が24年に創立100周年を迎えて、10月1日に開館したばかりだ。
今年1月6日には新会館で新春恒例の「指し初め式」が行われた。対戦は連盟会長の羽生善治九段ら豪華棋士陣とファンとの団体戦。対戦相手に選ばれたのは、新会館設立のクラウドファンディング出資者で、彼らにとっては最高の〝返礼〟となった。
「2021年の第1期から半年に1度のペースでクラファンを実施し、昨年6月の第6期までの総支援者は2万8000人以上、総額9億円以上を集め、好評のうちに終えました。連盟にとっては一大事業だったため、人気者の藤井7冠もフル動員され、“八面六臂の大活躍”と新聞に報じられたほど。当初は新会館建設はかなりの赤字覚悟との見方もあったので、まさに藤井ブーム“さまさま”といったところでしょう」(スポーツ紙記者)
だが逆に言えば、やはりブームに救われたとの見方がないわけでもない。というのも、将棋連盟を財政的に見た場合、必ずしも潤沢ではない台所事情があるからだ。
「16年に藤井7冠が14歳2カ月で史上最年少でプロデビューする以前は、連盟は火の車とも言える状態でした。特に06年には、連盟が名人戦の主催を毎日新聞から朝日新聞に移そうとして毎日新聞を激怒させ、将棋界は上を下への大騒ぎに。最終的には両社の“共催”という形に落ち着きましたが、結局原因はカネ。この頃は慢性的な赤字体質が問題視されていたのです」(同)
では、現在はどうか。24年度の連盟提出の資料を見ると、収支は黒字化しており、正味財産も増加。ちなみに、藤井デビュー以前の15年度と3年後の18年度を比較してみると、たった3年で経常収益が約5億円もアップしている。クラファン同様、現在の将棋連盟が藤井人気にあやかった財務体質であることは否定できないだろう。
個別の収支項目を見ても、事業収益の約5億円や物販の約7億円がプラスで目立ち、こちらもやはり藤井人気によるところが大きいと察しがつく。ちなみに将棋人口は98年に1000万人を割り込んで以来下げ止まり、22年から460万人と増減はなし(レジャー白書より)。現状暗くはないが、かといって先が明るいとは言えない。
1月7日、8大タイトルの王将戦から毎日新聞とスポーツニッポンが主催者からの撤退を表明、連盟101年目の公式戦スタートの日に衝撃に見舞われた。それでも翌8日に行われた叡王戦本戦トーナメント1回戦で藤井7冠が勝利、2回戦進出が決まり周囲を安心させたということで、やはり今後も将棋界は、この人の戦績次第といったところのようだ。
(猫間滋)