ラーメン&餃子が6000円突破!物価高が加速/池上彰「トランプ独裁」をズバリ解説(3)

──でも、そもそもトランプは移民を追い出すと言っているので働き手がいなくなるのでは?

 そうなんですよ。1100万人を追い出すと言っているわけですよね。今、例えばトウモロコシ農場の労働者などの多くは不法移民です。働く場所がないだろうと足元を見た経営者が、不法移民を安い給料で雇っているわけで、それによりアメリカの農業が成り立っているわけです。これは飲食店の従業員も同じです。この不法移民が皆いなくなったら、とてつもない人手不足が起きます。すると労働コストが上がり、さらに物価高が進むことになるわけです。

──アメリカは今でも物価高なのに、さらに上がるということでしょうか?

 はい。2年前の中間選挙の取材でニューヨークに行き、ラーメンと餃子を頼んだところ5400円でした。ところが昨年、大統領選の取材で同じ店に行ったら6000円に上がっていましたよ。ですが、ニューヨークやカリフォルニアのような、いわゆる民主党支持の強い州ではIT産業や金融業などは、給料がどんどん上がっているので痛くも痒くもない。インタビューしても「いや、給料も上がってるから大丈夫だよ」って答えが返ってくるわけです。反対に、中西部や南部など、工場労働者や農業労働者にしてみれば、ITなどと無縁なわけで、物価高で苦しんでいる。今回の大統領選では、こうした労働者層はトランプに投票し、ITや金融業など高学歴の人たちは民主党に投票するという「分断」が鮮明になったわけです。

──アメリカの分断、格差は深刻なのでしょうか。

 トランプの政策は行き当たりばったり。物価を下げると言っていますが、どうやって下げるかと言えば「ドリル・ベイビー・ドリル」(掘って掘って掘りまくれ)ですから。これはつまり、石油がどんどん出れば、エネルギー価格が下がり、電気代や、自動車の燃料代も、安くなる。地球温暖化なんか嘘だからエネルギーコストを下げていく。そうなれば物価が下がる、と言っている。その一方、不法移民を全部追い出せというわけですから、労働者不足でコスト高となり、物価が上がるっていう形になるわけです。物価を下げると言いながら、同時に物価が上がるような政策を取ろうとしているわけですね。

 これは選挙に勝つために口当たりのいいことを言ったものの、全体としてアメリカ経済がどうなるかというバランスはまったく考えていないわけです。

──場当たり的な政策でアメリカ経済の行く先は?

 不透明ですが、法人税を大幅に引き下げると言っています。法人税を40%から15%に下げる。つまり今まで40%の税金を納めなきゃいけなかったのが、15%で済むわけですから、大企業は大儲けするわけですね。

──「メーク・アメリカ・グレート・アゲイン(MAGA)」の掛け声で大統領に復帰しましたが、アメリカはもう1回グレートになるんでしょうか。

 トランプ1期目でアメリカの地位は低くなりました。アメリカさえよければいいということはそれだけ世界に口を出さないわけですから。ますます存在が薄くなっていくでしょうね。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。

(つづく)

ライフ