日本製鉄によるUSスチール買収計画について、バイデン大統領は1月3日、それを認めない方針を明らかにした。以前から計画に懐疑的な姿勢を示していたが、この発表により日本製鉄による買収は事実上困難となり、同社は無効を求める訴訟を起こした。
バイデン大統領は、この買収は米国の伝統的企業を外国の支配下に置くものであり、米国の国家安全保障への脅威、米鉄鋼業界とサプライチェーン強化の妨げとなるため、USスチールを保護することが自らの責務だと断言している。ただ、政権内部でも買収に賛成の意見が一部で聞かれる中、なぜ買収阻止の決断を下したのだろうか。その最大の理由は、やはり中国である。
バイデン大統領とトランプ次期大統領は、常に相手を罵倒するなど“罵り合い合戦”を続け、性格や考えが全く相容れないように見える。しかしトランプ氏は政権1期目の際、中国製品の輸入に対する追加関税を次々に打ち出し、米中間では貿易摩擦が激化していった。そしてバイデン政権も同様に、中国の人権侵害や半導体の軍事転用などを理由に中国への貿易規制を強化しており、“対中警戒”という点では両者は何も変わらない。今日の米国は、中国が先端テクノロジーを駆使して軍の近代化・ハイテク化を目指し、EVや鉄鋼などをダンピングして世界市場で影響力を奪取しようとする動きを最大限に警戒。米国からの締め出しには容赦がない。
今回の買収問題でも、米国は日本製鉄が脱中国の姿勢を鮮明にしているにもかかわらず、それでも完全に中国との関係が否定できないとの立場を堅持し、結果としてバイデン大統領は買収に「NO」を突き付けた。これだけグローバルサプライチェーンが毛細血管のよ張り巡らされた今日において、特定の日本企業が中国と接点があるかどうかを完全に見極めることは難しく、それがはっきりしないなら外国企業による米企業の買収そのものを阻止するしかないという厄介な考えもあろう。
また、USスチールは米経済を象徴する企業だけに、外国企業にジャックされることは許されないという国家のプライドを巡る問題もある。今回の買収反対には、中国への警戒感と米国の国家としてのプライドが背景にある。
(北島豊)