確かに、飲み屋が密集して、いまだ猥雑さも残す都会のエリアは外国人たちにとって魅力的なニッポンの観光スポットのようだ。多くの旅行者が集結している。そして飲んで気が大きくなっているからか、彼らはただ寝ているだけ、あるいは座ったまま時々「チャオ!」などと言うだけの大ちゃんのタッパーに、飲み屋でもらったばかりのお釣りの小銭や、1000円札を投げ込んでいくのだ。紙幣は懐に入れ、小銭は見せ金としてタッパーに残す。それが大ちゃんの流儀だった。
それにしても日当1万5000円であれば、おそらく近くの飲み屋で真面目に働くバイトよりも高給取りなのではないだろうか。であれば、生活保護をもらうことはかなわないだろう。
「いや、保護はもらっているよ。だから部屋もある。江東区だけどね」
何と大ちゃんは生活保護ももらって風呂付の部屋に住み、最低限文化的な生活ができる環境もすでに手に入れていたのだ。
その証拠にと懐からスマホを取り出すと、友人に電話をしてみせたり、トー横キッズや大久保を根城にする女子たちとのツーショット写真を見せて「彼女だ」とのたまうのだった。
「生活保護は新宿区に申し込んだんだけど、部屋がないからって江東区に移された。だから部屋は新宿にはないけど、保護は新宿からもらっているから、俺が新宿で働くのは真っ当な権利なんだよ」
大ちゃんは純粋なホームレスではなく「職業ホームレス」なのだった。
令和に入ってから、新宿区内のホームレスは100人を切り続けている。意外にも少ない印象を受けるが、確かに公園などでもあまり見かけなくなった。
大ちゃんがそうであるように、区外に生活保護の紐付きで移送しているからなのだろうか。新宿区生活福祉課に問い合わせると、こんな回答だった。
「新宿区から保護を受けながら他区に居住されている方々はいます。ただしそれは、東京都の政策として都の施設に入ってもらっているからです。施設に入居された後は、民間事業者も含めて移動される方も多いので、統計としてどのくらいの人数になるのかは把握できていません。ただし保護を受けている方には、物乞いでも収入があれば申告してもらう義務はあります」
ちなみに、大ちゃんが高給な日当を申告したことはないという。仮に発覚して「刑務所に行くことになっても構わない」とうそぶいた。
「俺も昔は〇〇組だったからさぁ」
酔っ払いの話がどこまで本当かはわからない。しかし、その間もタッパーには次々と外国人から1000円札が投げ込まれていく。それだけは紛れもない真実だった。
(フリーライター・齋藤ひろし)
*週刊アサヒ芸能12月26日号掲載