「トランプ復権」でもネタニヤフ首相が「戦闘長期化」を目論む理由

 米次期大統領に返り咲いたトランプ氏を巡り、中東でも大きなうねりが起こっている。かねてからトランプ氏を「イスラエルがホワイトハウスに抱える最高の友人」と呼んでいたイスラエルのネタニヤフ首相は11月6日、いち早くトランプ氏に電話を入れ祝意を伝えたとされるが、同氏はガザ戦争や隣国レバノンへの戦線拡大、さらにイランとの交戦を巡り、現職のバイデン大統領と激しく対立。ここ数か月、両者の関係は完全に冷え切っていたともいわれる。

 さらに、ガザ地区の停戦交渉を仲介するエジプトやカタールも、トランプ氏の大統領就任には歓迎ムードで、多くの中東諸国が次期米大統領の早期停戦に向けた「ディール」(取引)に期待を寄せているようだ。国際部記者が語る。

「トランプ氏は選挙期間中、ネタニヤフ首相に対し、もし自分が当選したら来年1月の就任までにガザ地区の戦闘を終わらせると明言していたと言いますからね。ただ、強烈な親イスラエル派として知られるトランプ氏のこと。終わらせるからには戦後のガザ統治も含め、イスラエルに有利な形での停戦交渉が進められるはずです。ハマスも6日に声明を出し、トランプ氏による早期停戦実現は歓迎しているものの、エルサレムを首都としたパレスチナ国家の独立など、改めて従来の要求は強調していますからね。今後はトランプ氏がどんな策を講じてパレスチナの人々の『権利と大義』に折り合いをつけていくのか、世界中の注目が集まっています」

 トランプ氏は前回の任期中だった2020年のいわゆる「アブラハム合意」で、イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)およびバーレーンとの国交正常化を仲介。この合意により、イスラエルはそれまで敵対してきたアラブ諸国4カ国と調印。結果、合計6か国がイスラエルと国交を樹立することになったわけだが、トランプ氏としては、同盟国であるサウジアラビアに対しても、イスラエルと国交を樹立すれば、米との安全保障や原子力分野で協定を強化すると餌をぶら下げ、法案成立に向け、交渉を続けてきた。しかし、両国の交渉が大詰めを迎えていた昨年10月、ハマスによる攻撃が勃発したというわけである。

「サウジ側は、『イスラエルがパレスチナ国家への道筋を明確に示すこと』を国交樹立の条件としていて、パレスチナ国家に反対するネタニヤフ氏が、この点にどう譲歩するのかが焦点になっていた。ただ、国交樹立となれば、パレスチナ問題が忘れられてしまいかねない。そこで奇襲攻撃に踏み切り、国交そのものを潰そうとした。そう見る専門家が多いようです」(同)

 以来1年にわたり、イスラエルとハマスの間では戦闘が続いてきたが、実はネタニヤフ氏は昨年のハマス奇襲攻撃を察知できなかったことから、その責任を問われてガザ戦争終結後には、首相辞任は免れないとされる。さらに汚職容疑で刑事被告人の身でもあるため、「親イラン組織ヒズボラを叩き、レバノン全土を爆撃するなど戦線を拡大することで、ハマスとの戦闘を長引かせたいとの思惑がある」との専門家の見方もある。

「トランプ氏は、ネタニヤフ氏と個人的な関係にあるものの、同時にハマスと接触するルートをもつ主要なアラブ諸国の指導者たちとも、強力な関係を築いてきている。つまり、極端な言い方をすれば、もはや後がないネタニヤフ氏抜きでも、ハマスとの交渉が十分可能だということです。むろん、ハマスやヒズボラのバックには宿敵であるイランがいるわけですが、今回の選挙戦中から『戦争を終結させる』と公言してきたトランプ氏ですからね。今回の復権でどんなウルトラCが飛び出すのか。はたまた、これまで以上に関係がこじれるのか。トランプ氏の予測不可能な外交に期待が集まっています」(同)

 トランプ氏の大統領就任まで、あと2か月…。中東諸国が期待と緊張に包まれている。

(灯倫太郎)

ライフ