「トランプ再選」で台湾問題は激変する/池上彰が「激動の日本」をズバリ解説(上)

「私が引くことでケジメをつける」、お盆の最中、突如として自民総裁選への不出馬を宣言した岸田総理。八方塞がりの中、裏金問題など国民からの辞任シュプレヒコールに「聞く耳」を発揮した結果だったのか‥‥。ジャーナリスト・池上彰の夏季講座、第2回目はアジア・日本編。“池上なるほど解説”で今が見える!

──前号では、アメリカ大統領選、ヨーロッパの政変、ウクライナ・中東の戦争について伺いました。今回はいよいよアジア・日本を俎上に載せていきたいと思います。

池上 では、まず中国から始めましょうか。

──はい、習近平国家主席の一強体制が続いていますが、経済面では不動産バブルが弾けたとも言われています。

池上 そうですね。7月中旬に発表されたGDPの伸び率は、4.7%でした。中国は、いつも伸び率の目標を掲げます。するとその数字は必ず達成されるんです。ところが、今回5%を目指したのに、足りていない。しかも、GDPの発表では必ず記者会見していたのに、今回はなし。つまり、数字を操作できないくらいひどいことになっているのでしょう。今、中国経済は相当おかしいですね。

──一方で、中国は台湾への圧力をますます強めています。台湾有事が心配されますが。

池上 基本的に中国は「孫子の兵法」、戦わずして勝つなんです。 そもそも中国は台湾を自分の領土だって言ってるわけです。だから、全面戦争になって、台湾に大量のミサイル打ち込んだら、中国にとっての“中国人”が死ぬことになる。自国の国民を大量に殺してしまったら、統治することなどできませんよ。だから、戦争は最後の手段になります。

──しかし、5月には台湾の周りを取り囲む圧倒的な軍事演習を行いました。

池上 これは仮に台湾が独立し、中国が台湾を攻撃したら、アメリカが台湾を助けに来る。それを阻止できる戦略を見せようとしてるわけです。今、現実的には、アメリカが助けに来たら、やっぱり中国は負けてしまう。だから空母3隻で、アメリカ軍が南シナ海に近づけないような態勢を敷き、それで台湾に、ほーら、もうアメリカは助けに来てくれないぞと見せつける、そういう戦略なんです。

──でも、もしもトランプが大統領になったらどうなるでしょう?

池上 はい、ここで“もしトラ”ですね。アメリカには台湾関係法という法律があります。ニクソン大統領の時代、アメリカは中国と国交を結んだわけですが、反対に国交を断絶した台湾について、米議会は今後も台湾を守っていく、という台湾関係法を作ったんです。それは、もし台湾が他国から侵略を受けるようなことがあれば、アメリカは“適切な対応”を取るというものでした。この“適切な対応”というのは非常に抽象的なので、バイデンを含む歴代の大統領は軍を派遣して守ると宣言してきたわけです。ところが、トランプは「もし台湾が攻撃されたら助けに行くのか」と聞かれ、その質問には答えずに「台湾は半導体の技術をアメリカから盗んだ」と台湾を非難したんです。だから、もし何かあったとしても、「なんであんな小さな島を守るためにアメリカが行かなきゃいけないんだ」と言い出しかねない。

──アメリカファーストですね。アジアにもトランプの影響は大きいんですね。

池上彰(いけがみ・あきら)1950年、長野生まれ。73年NHK入局。94年より「週刊こどもニュース」を担当。05年に退局後は、フリージャーナリストとしてテレビ出演・執筆活動を続けるほか、名城大教授など複数大学で学生を指導。

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