「何かを治すには、時には薬が必要だ」
米トランプ政権が打ち出した関税政策により世界の株式市場が大きく揺れ動く中、トランプ氏は4月6日、記者団に対しそう述べ、自らが断行した政策の正当性を強調した。
今回、トランプ政権による関税引き上げ対象となった国は185カ国。なかにはペンギンとアザラシしか生息できない南極の小さな遠隔地も含まれている。
「それがオーストラリアから南西4000キロ沖に位置する同国領ハード島と、マクドナルド諸島です。これらの島に行くためには本土から船で1週間程度かかり、特に氷に覆われた無人島であるハード島は2016年以来、人間が誰一人として訪れたことがない場所だといいます。トランプはこの2島ほか、ノルウェーのスヴァールバル諸島や英領フォークランド諸島、イギリス領インド洋地域なども、新しい関税対象としていますからね。オーストラリアのアルバニージー首相は『これはつまり、地球上のどこだろうと(関税から)逃れられないと示す事例』とコメントしていますが、まさか無人島まで対象にするとは…。本当に驚くばかりです」(国際部記者)
ところが、185の対象国のなかにベラルーシ、キューバ、北朝鮮、そして、あのロシアが含まれていなかったことを巡り、様々な憶測が広がっている。
「今回、米政府が発表した相互関税上乗せは同盟国、敵対国の区別なく、欧州やアジアの多くの国・地域に適用されています。ただ、なぜこの4か国は対象外になっている。米メディアの取材に答えたベッセント財務長官は、4か国はいずれも制裁を受けている国で、現在米国との間で実質的に貿易取引がないことを理由に挙げている。確かに北朝鮮とキューバはアメリカとの取引はないでしょう。ただ、ロシアとはウクライナ戦争勃発後も木材やウラン精鉱などの輸入は継続していることから、24年、その額は約32億ドルと21年の10分の1程度とはいえ、貿易取引があったことは事実。つまり、財務長官がいう理由には当てはまらないということです」(同)
さらに経済制裁という部分も、アメリカが多くの制裁を課すリビアに対し、今回31%の関税引き上げを発表している。昨年の対リビア輸入額は約15億ドル。これは対ロシア輸入額の半分にも満たない。つまり、経済制裁を課し、しかも輸入額がロシアよりはるかに少ない国へも追加関税を引き上げる、としているのだ。また1979年以来、「テロ支援国家」に指定し、昨年の対輸入額が629万ドル程度に過ぎなかったイランにさえも、10%の関税引き上げを決定している。となると、誰が考えてもトランプ政権がロシアだけを特別扱いしているととらえることが自然だろう。
「原因についてさまざまな憶測はあるものの、やはり最大の要因はウクライナ停戦協議をめぐりアメリカがロシアとの関係改善を優先させたいということでしょうね。トランプとしては『戦争を1日で終わらせる』と豪語した以上、何が何でも戦争を終わらせなければ面子が立たない。そこで、いまプーチンのへそを曲げさせたらややこしいことになると考えた。加えてバイデン前政権時にもアメリカをはじめ西側がさんざんロシアに制裁を課してきたものの、ロシアは圧力に屈することなく、すでにウクライナ戦争前のGDP成長率に戻っている。つまり、もはやロシアに圧力を加える手立てがないことを、トランプ自身よく理解しているということ。ならば、あとはプーチンの気分を害さぬよう、最終的に決着させるしかない。今回の優遇措置にそんなトランプの思惑が見え隠れしています」(同)
今回、米政府はウクライナ製品に対する関税も10%引き上げたが、はたしてそれが意味することとは…。
(灯倫太郎)