今年の夏、「摘発」の一報が流れた際には、その特徴的な店舗名に世間の注目が集まったが…。法廷に立ったのは、ホテルに女性を派遣し、3年間で65億円を荒稼ぎしていたグループの代表。4年間で1億円以上の報酬を得ていた上納システムとは? お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。
東京地裁だけの傾向かも知れませんが、この半年ほど、性的サービスを提供する違法ピンク店に関する裁判が非常に多い。あと、ネット上に無加工動画をアップロードした容疑の裁判も多いです。警視庁がその方面を重点的に取り締まっている努力が出ているのでしょう。経営してる人やアップしてる人、それらを利用してる人は要注意ですね。先日、東京地裁で実際に行われた裁判の傍聴記を。
罪名:売春防止法違反
被告人:無職の男性(44)
起訴されたのは6件。今年の4月4日に東京・五反田に事務所を構える出張型ピンク店「天然素人やりすぎ娘」の代表である被告人は、女性従業員を男性客が指定するホテルの部屋に引き合わせ、ウリの周旋を行った件。他にはほぼ似たような内容で、今年の4月4日から4月12日までに同様の違法行為をしたとして5件起訴されています。
この事件は実名報道されて、世間を騒がせました。新宿・歌舞伎町で街娼をしている女性を一斉摘発したらこのグループで働いていた女性が多かったということで警察が目をつけていたようです。なんと、3年間で65億円を稼いだと報じられていたので相当大きな性事業グループなんでしょう。禁止されている本番行為のサービスまでやっていたのが「やりすぎ娘」とはなかなかシャレが効いていますね。
罪状認否で被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を中退して職を転々とし、犯行当時は「天然素人やりすぎ娘」グループの代表だったそうです。20年前から性産業の仕事を続けていて、2005年にその手の罪で有罪判決を受け、前科1犯があるとのこと。
被告人は2015年に、東京・池袋に「天然素人やりすぎ娘」というピンク店をオープン。2017年には本番行為のサービスを始め、店舗数を増やしていたという。2021年には、売上の他に五反田店と新橋店から売り上げの3%を上納金として受け取るシステムになっていたという。ちなみに五反田店が月600万円、新橋店が月300万円の純利益があったそうで、被告人は4年間で1億2400万円を受け取っていたとのこと。
そして被告人質問です。まずは弁護人から。
弁護人「いつから店で働くようになったんですか?」
被告人「21才の時からです」
弁護人「独立したのはいつですか?」
被告人「2015年になります」
弁護人「その当時はどんな役割でしたか?」
被告人「池袋店の店長として勤務していました」
弁護人「それが、証拠に何回も出てくるやりすぎグループですね?」
被告人「そうです」
お店は人気が出て、ドンドン規模が拡大してグループになっていったそうです。
弁護人「代表ということですが、具体的にどんな仕事をしてたんですか?」
被告人「各店舗のトップと月に2回の会議がありました」
弁護人「どんな会議なんですか?」
被告人「売上の報告です。顔合わせの意味が強かったですね」
どうやら、被告人は事務所に行ったりはせず、月に2回の会議しか出てなかったようです。それで4年間で1億円以上の報酬を得ていたとは…。
弁護人「現在は無職ということですが、今後仕事はどうしますか?」
被告人「この裁判が終わってから考えます」
弁護人「え?、性関係の仕事は?」
被告人「考えてます」
この手の裁判中にまた同じ仕事をやると約束するのは印象が良くない気もしますが…。
弁護人「それはルールに則ってという意味ですよね?」
被告人「そうです。長いことやってきたので、他の仕事はちょっと…」
と、今後は法令遵守で同様の事業をやるとの宣言。常連客もホッと一安心といったところでしょう。続いて、検察官から。
検察官「本番行為をやっていると認識したのはいつですか?」
被告人「2020年には思っていました」
検察官「五反田店と新橋店は、最初から本番行為があると思ってましたか?」
被告人「ん?、オプションが付いてたのでそうかなと」
グループとしては他にも店があって、ルールを守って本番行為をやってない店もあったようです。
検察官「気付いてたのに言わなかったんですか?」
被告人「ちゃんとしている店もあるので、特に言ってなかったです。代表でもそこは強制力はないので」
本番やっちゃダメだよ、と注意しても従うか従わないかは店長次第で店によってサービス内容がかなり違ってたみたいです。最後は裁判官から。
裁判官「上納金っていつから貰ってたんですか?」
被告人「2020年の中盤です」
裁判官「独立したのが2015年だから、それまでの5年間は?」
被告人「貰ってません。無報酬です」
グループは大きくなるけど、2020年までは代表である被告人にはお金が流れない仕組みになっていたようです。
裁判官「生活費はどうしてたんですか?」
被告人「池袋店で店長として働いてたので、その給料は貰ってたので」
裁判官「代表としての報酬はなかったと。証拠によると、最初は本番アリじゃなかったと?」
被告人「はい。勤務していた池袋店は徹底して禁止いましたし、2018年くらいから現場を離れていたのでいつからやるようになったのかは正直知りません…」
被告人としてはお金は入ってくるし、逮捕もされないから現場を信用して全て任せていたと。これを聞いた裁判官は…。
裁判官「本番アリだと売り上げって変わってくるんですか?」
被告人「ん?…それは何とも言えませんねー…。本番アリだから売り上げあるって言われても、本番アリでも赤字の店もあるみたいなので…」
業界歴23年の被告人が経営素人の裁判官にレクチャーするみたいな感じ。ピンク店は本番行為をすれば経営が上手くいくってわけじゃないよ、そんな単純な世界じゃないよ、と。ってか、他に本番アリの店があると同業者の情報をチラッと暴露する被告人。これで被告人質問は終了です。
この後検察官が懲役3年を求刑して、初公判はこれにて閉廷です。2週間後に判決が言い渡されて、結果は懲役3年執行猶予5年でした。執行猶予は最長で5年なので、ギリギリで実刑を免れたといったところでしょうか。
女性がこうやって稼いだ中から上納金として報酬を得てたっていうのが、性的搾取を防止する売春防止法のど真ん中に触れたという事件ですね。まさしく、やりすぎたか。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。