【北朝鮮】金正恩が囲う「焦りの鉄条網」前線兵士の“洗脳解放”が始まった

 6月18日、いよいよロシアのプーチン大統領が2000年7月以来24年ぶりに北朝鮮を訪れる。ロシア大統領府によれば日程は1泊2日で、19日には平壌で首脳会談に臨むとされているが、今回の会談でより軍事的な連携が強まることは必至だろう。

 一方、ここ最近も北朝鮮の「汚物風船」に対し、韓国が「宣伝放送」で対抗するなど、南北両国による相も変わらずのいがみ合いが続いている。

 そんな中で15日、北朝鮮が休戦ラインに沿って障壁を構築、さらに独自の戦術道路建設にも着手し始めたと、韓国の複数メディアが報じた。北朝鮮情勢に詳しいジャーナリストが解説する。

「北朝鮮は今年1月、京義線と東海線道路に複数の地雷を埋設し、続いて4月からは軍事境界線北側で地雷埋設作業を進めていたことが韓国軍によって確認されています。6月9日には、シャベルやつるはしなどの作業道具を手にした北朝鮮軍兵士数十人が中部戦線の非武装地帯(DMZ)での作業途中、軍事境界線を越え韓国側に侵犯。韓国軍が警告放送と警告射撃するという騒ぎも発生しています。今回の休戦ラインに沿った障壁建設もその延長上にあるものと考えられますが、仮に248キロにわたる南北の軍事境界線に新たに壁が完成した場合、35年前のベルリンの壁崩壊以降、新たな冷戦の象徴ともなりうる。そしてこの壁建設は、間違いなく金正恩総書記の本気度の表れだといっていいでしょうね」

 正恩氏は、昨年末に開かれた党中央委員会で、南北関係を「敵対的な二つの国家関係」と初めて宣言。その後、宣言をなぞるように国を挙げて“統一”と“民族”の概念を消し去るべく、その方針を推し進めてきた。

「北朝鮮憲法に明記された『平和統一』『民族大団結』といった用語の削除に始まり、平壌にある祖国統一三大憲章記念塔を撤去。統一戦線部の名称も『労働党中央委員会10局』に変更し、『統一』『和解』『同族』を連想させるものが段階的に排除、変更されてきました。ただ、これからは、より物理的な部分での排除が進められることになりそうです」(同)

 そして、そういった流れの大元にあるのが、正恩氏が募らせる危機感。背景には、軍事境界線はあるものの、近年は韓国文化の流入に歯止めがかからない状況がある。

「特に80年代半ば以降に生まれた、いわゆるMZ世代は市場経済の中で育ってきたため、表向きは現政権に従うものの、内心そこまで深い忠誠心を持っていないとされる。ところが、そんな世代が軍事境界線付近で兵役に就いているわけです。しかも皮肉なことに、今回の『汚物風船』の報復により韓国側が拡声器放送で韓流音楽を流し始めたことで、前線の兵士たちは相当悩ましい思いをしていることは想像に難しくない。そんなことから、韓国情報筋からは、休戦ラインの壁建設は南北断絶の意味以上に、前線兵士を脱北させないための苦肉の策との見方も聞こえます」(同)

 正恩氏は2020年末、韓流阻止を目的とした「反動思想文化排撃法」を制定。他文化コンテンツの視聴や広めた人間の処刑も増えたが、それでも韓流の流入が止まらず、ついには中朝国境全域の1400キロを鉄条網で封鎖が決定したとも伝えられる。ベルリンの壁しかり、自由世界の情報は一瞬にして壁を通り抜けることもまた、事実なのだが…。

(灯倫太郎)

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