5月10日、韓国の脱北者団体「自由北韓運動連合」が、北朝鮮に近い北西部の仁川・江華島から北朝鮮に向け、金正恩体制を批判するビラ30万枚と、K-POPなどの動画を収録したUSBメモリー2000個を風船にくくりつけ飛ばしたことが、韓国メディアにより大きく報じられた。
風船にはつるされた垂れ幕には「金正恩こそ不変の逆賊、民族の敵そのもの」と書かれ、韓国政府は南北間の緊張が高まるこの時期のビラ散布は自制するよう、同団体に申し入れていたようだが、それを無視する形での大量散布には懸念の声も上がってた。
そんな中、北朝鮮の国務次官が26日、このビラ散布に対抗し、「空から汚物をばら撒く」との声明を発表、波紋が広がっている。
北朝鮮問題に詳しいジャーナリストが語る。
「朝鮮中央通信を通じ談話を発表したのはキム・ガンイル国防次官で、『最近になって国境地域でビラや各種汚らしいものが散布された』として、『気球を利用した散布行為は特異な軍事的目的としても利用される危険な挑発』と主張。最高軍事指導部が24日、軍隊に汚物散布を命令したとして、『敵の挑発的行動に攻勢的な対応を加えるべく、多くの紙くずと汚物が近く韓国国境地域と縦深地域に散布されるだろう』と警告しています。これがいつもの脅しなのか、あるいは本当にやるつもりでいるのかはわかりませんが、いずれにしても国境付近での緊張が高まっていることは間違いないようです」
とはいえ、大量の汚物を散布するためには、まずはソレを集めなければならない。北朝鮮軍はいったいどんな方法で汚物を集め、運搬し、空中散布しようというのだろうか。
前出のウオッチャーが続ける。
「実は北朝鮮では、毎年1月になると当局により人糞集めのノルマが課せられるんです。というのも、北朝鮮の肥料消費量は年間155万トンとされる一方、生産量は50万トン程度しかない。そのため不足分については中国からの輸入に頼っているものの、それでも需要を満たせないのが現状です。そこで当局は毎年1月に『堆肥戦闘』と銘打った『人糞集め』を国民に課しているんです」
かつて、この「堆肥戦闘」を報じた米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、毎年17歳以上のすべての国民は、1人あたり1トン、家畜なら3トンの糞尿を集め、それを協同農場に収める、というノルマを課せられるというのだが…。
「ただ、食糧事情が悪い北朝鮮では、当然、その量に達成できない場合もある。とはいえ、ノルマを達成できなければ処罰対象となるため、この時期には『糞尿泥棒』も横行するのだとか。さらに商品として市場で取引されるので、ブローカーも暗躍する。基本、糞尿は協同農場に集められ、そこで『確認証』をもらうのですが、ブローカーが間に入り農場職員と結託。糞尿の代わりに米や金品などの賄賂を受け取って『確認証』を発行するという手口も少なくないようです」(同)
28日には「衛星」を打ち上げて失敗した北朝鮮。次は大量の汚物をバラ撒くか。
(灯倫太郎)