自宅に大麻リキッド10本、映画プロデューサーに下された判決の中身

 昨年春、一人の映画プロデューサーが大麻取締法違反の容疑で逮捕されていた。逮捕劇からおよそ1年、彼に下された判決の中身とは…。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火がリポートする。

 4月某日、東京地裁で映画プロデューサーの男性を被告人とする刑事裁判が行われました。去年アップされた被告人のインタビュー記事は、映画の保存の大変さを伝える内容で、結構話題になりました。まさかそんなバズってた頃に逮捕されていたとは…。

罪名:大麻取締法違反
被告人:映画配給業の男性

 起訴されたのは、去年3月、被告人が東京都内の自宅で大麻リキッド0.838グラムを所持していたという内容です。罪状認否で被告人は「間違いありません」と罪を認めていました。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は大学を中退後に大学の非常勤講師になり、その後映画の配給業をしていたそうです。前科前歴は無く、今回が初めての逮捕となります。

 犯行前日、被告人は警察官から職務質問を受け、カバンの中から大麻入りクッキーが見つかったという。そして翌日、被告人の自宅を家宅捜査したところ、大麻リキッド10本が発見され、そのうちの1本だけが起訴されたというのが事件の詳細になります。そして、被告人質問。まずは弁護人から。

弁護人「取り調べの調書を見ると『コロナ禍で映画を見に行けなくなったのがきっかけ』だと。元々どれくらい映画見てたんですか?」

被告人「年200~300本見てました」

 仕事関連の作品もあったのか結構な本数の映画を見ていたようです。しかしコロナ禍で思うように映画を見られず、視聴本数が減って大麻に手を出したという話なのですが、映画と大麻の関係が全くの意味不明。これは後で裁判官にも聞かれることになります。

弁護人「逮捕が去年の3月。それ以降使ってないですか?」

被告人「はい」

弁護人「使って、どんな悪いことありました?」

被告人「タンとか咳が出やすくなって、体に悪いんだなと」

弁護人「あと仕事にも影響あるんじゃないですか?」

被告人「そうですね。物凄く反省しまして、2度としないと誓います」

 こうして大麻リキッドを使った後のデメリットと再犯しないことを約束して弁護人からの質問は終了。続いて、検察官の質問です。

検察官「いつから使ってたんですか?」

被告人「2年くらい前です」

検察官「頻度は?」

被告人「月に3~4回です」

検察官「自宅にあったリキッド10本は使いかけの残りですよね?」

被告人「そうです」

検察官「大麻以外の使用経験はあるんですか?」

被告人「ありません」

 2年間、週1のペースで使ってたようです。もっと依存度の高いハードドラッグに移行しなかったのは幸いですが、2年間も継続しているんだから「簡単にやめられるのだろうか?」という疑問はありますね。スマホの中に入っている売人の連絡先も消去して2度と手を出さないと約束していました。最後は裁判官から。

裁判官「大麻を始めたきっかけがよく分からなかったんですけど? コロナがどういう事なんですか?」

被告人「コロナで仕事が無くなって、時間が出来たので…」

 エンタメ関係はコロナ禍で打撃を受けた業界のひとつ。人が密集する映画館では、営業休止や座席の間引きなどの対策が取られました。被告人は仕事が減って時間に余裕が出来て、大麻リキッドに興味を持ってしまったということのようです。

裁判官「情状証人とか嘆願書とか何もないですけど、今回のこの逮捕を知ってる人はいるんですか?」

被告人「おります」

裁判官「それは家族とか?」

被告人「いや、知人です。先輩になります」

裁判官「それって、もちろん大麻をやるとなったら止めてくれる人ですよね?」

被告人「そうです」

 と、大麻仲間ではない先輩が指導監督をしてくれると述べて被告人質問は終了です。この後検察官の論告求刑。大麻リキッドは大麻成分を抽出して濃縮した液体なので、このグラム数でも少なくないとして懲役8月と大麻リキッド1本没収を求刑しました。

 そして1週間後の4月23日、判決が言い渡されました。結果は、懲役8月執行猶予3年と大麻リキッド1本没収というもの。初犯という事もあり、刑務所に行く必要はないという判決でした。コロナも落ち着いた事だし、本職の映画の方に専念してもらいたいですね。

 それにしても、起訴したのが大麻リキッド1本だから仕方ないけど、被告人の自宅には後9本の大麻リキッドがあるんですよね。そっちは没収しなくてもいいのかという心配が。

阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。

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